アメリカ 2018
監督 カリン・クサマ
脚本 フィル・ヘイ、マット・マンフレディ
若かりし頃の潜入捜査で犯した失態にケリをつけるため、犯人追跡の鬼と化す中年女刑事を描いた犯罪映画。
なんといっても強い印象を残すのは、あのニコール・キッドマンが汚れ役といってもいい女刑事エリンを、わざわざ特殊メイクをしてまで熱演してることでしょうね。
私は最初、ノーメイクで出てる!とびっくりしたんですけど、よくよく調べてみたら、くたびれた中年女のイメージを作り上げるためにシワとかシミとか事前に加工したんだとか。
多分、ノーメイクでも綺麗すぎたんでしょうね、キッドマン。
そりゃそうだわなあ、アクアマン(2018)とか、ヒロインを食いかねない勢いで超絶美人(当時51歳でしたけど)でしたしね、そんな人のスッピンが中途半端に汚いわけがない。
しかし、自己破壊願望でもあるんですかね、ハリウッドの有名女優さんたちは。
モンスター(2003)のシャーリーズ・セロンしかり。
老いを蹴散らすためのたゆまぬ努力を日々重ねてらっしゃると思うんですけど、それすらもかなぐり捨てて「演技力だけで勝負してみたい」と思った、ってことなんでしょうかね?
すでに充分すぎるぐらい世界的評価を得ていると思うんですけどねえ、キッドマン。
わかりません。
ま、ぶっちゃけね、元がわからなくなるぐらいみすぼらしい外見になってるわけでもないんで、見始めてしばらくは若干違和感あったんです。
暴力沙汰をも辞さぬ男勝りなやさぐれた女刑事という役柄が、キッドマンという役者のイメージと上手に重ならない。
いやいや、あなたがわざわざこの役をやらなくても・・・みたいな。
穿った見方ですけど、結局は話題性なのか?と。
なんだか軽く男に吹っ飛ばされてしまいそうな感じで華奢だし、小顔ですしね。
それを少しづつひっくり返していったのが、監督の演出。
往年のフィルム・ノワールな質感を漂わせる乾いた画作りや、ハードボイルド調のぶっきらぼうなタッチがキッドマンを差しおいて物語世界へと上手に観客を誘導していくんです。
カリン・クサマ監督といえばイーオン・フラックス(2005)が有名ですが、こんなこともできたのか、と驚かされましたね。
なんせ前作がインビテーション(2015)ですし。
全然畑違いのジャンルなように思われるんですが、むしろこの映画のほうが本領を発揮してるようにも思えるんだから大したもの。
主人公女刑事とその娘の断絶を主筋に絡ませていったシナリオ作りもよくできてる。
娘に対する主人公の不器用な態度で、女刑事エリンがいかにぶっ壊れてるかを強く印象づける仕組みになってるんですよね。
犯罪と向き合うことで主人公を立脚させるのではなく、親子関係からその内面を浮き彫りにしていく手管は、一人の女としてのエリンのキャラクターに強い説得力をもたらしめた、と言っていいでしょう。
ここまできて、ようやくキッドマンとエリンがブレずに重なって見えてくる。
しかしこれがもし計算だとしたら凄いな、と私は思いましたね。
終盤に至って、本作のキッドマン抜擢にひどく納得させられちゃうんですよ。
さらにお見事だったのが、最後の最後にどんでん返しというか、驚きのオチが待ち受けてたこと。
何故エリンは娘に対してあのような独白をしたのか、どうして彼女はオープニングであんな感じだったのか、断片だったピースがすべての隙間を埋めて、鮮やかに一枚の絵となる。
いや、唸らされた。
秀作でしょう。
よくある刑事ものかな?と思いきや、予想外の裏切りを見せつけてくれた優れた一作だと思います。
キッドマン特殊メイクというトピックすら包括した本物のノワールだとオススメする次第。