チリ 2019
監督 パブロ・ラライン
脚本 パブロ・ラライン、ギジェルモ・カルデロン、アレハンドロ・モレノ
養子として引き取った少年が放火事件を起こしたために、養母としての資格を剥奪されてしまった主人公エマの「その後」の奇矯な行動を描いた人間ドラマ。
「きわめて不道徳」などというキャッチコピーが踊ってますが、正直それほどでもないです。
この映画が、もし「きわめて不道徳」なら、ギャスパー・ノエの作品なんて余裕で上映禁止、きっとマスターフィルムは焼かれて灰になってることでしょう。
どっちかというと「きわめて不道徳」というより「きわめてわかりづらい」と言ったほうが正解でしょうね。
まず大前提として、セリフが噛み合ってない、ってのがありまして。
観念的なわけではないんですけど、どうにも内輪受けっぽい台詞回しが目立ってまして。
これ『想像してください』ってことなんだと思うんですけどね、引き込まれるものがあってこそ、想像力も働くんであって。
最初の30分で私は、なんだこれ暇人のアート気取りな退廃的余興か?などと思っちゃったものだから。
いやもうほんとにファンの方々すいません。
ついていけてないだけなんだと思いますし、感性が摩滅しちゃってると言われれば否定できないんですけど、エマがどういう人物なのか、よくわからないうちから意味なくダンスシーンが随所に盛り込まれ、唐突に街なかで火炎放射器をぶっ放して車焼いたりしてるものだから、もう何をどうしたいのかさっぱり理解できなくてですね。
「別れ別れになった養子の少年ともう一度やり直したい」と強く願ってる割にはなんだか余裕あるじゃねえかよ、お前、みたいな感じで。
彼女にはダンスしかなかった、それすらも大きな計画の一部だった、という解釈はもちろん成り立つんでしょうけど、余興がすぎる、と私は思っちゃったものだから。
もちろんこれは監督の意図的余興と言う意味。
美的ではあるんです。
はっ、とする瞬間を切り取る才に長けている、と素直に思いましたし。
でもねえ、ダンスの凄みや火炎放射器で抱えてる問題が解決しない以上、それはやっぱり脇道だし、目くらましだよなあ、と私には感じられて。
暗喩や象徴として盛り込むのはかまわないと思うんですが、そこに力を入れすぎちゃうと散文的になる。
なんかMTVみたいなんですよね。
きっとわかりづらさの正体って「それ」で。
一応ね、ストーリーは最後に落とし所を見いだしてはいるんですけどね、ひどく遠回りしたな、というのが率直な感想。
あ、そういうことだったのか、と膝を打つ仕掛けにはなってるんですけど、どうせなら火炎放射器でオチごとローストするぐらいの暴挙をやらかしてくれてもよかったんだよ、と少し思ったりはしました。
ラストシーンなんて爆破炎上のかっこうの舞台だったと思うんですけどね、あっさり終わってしまいましたしね。
目的のためなら手段を選ばず、その身をも投げ出す女にゾクゾクする人とかは楽しめるかもしれません。
なにか別のことを同時に描こうとしてうまくいかなかった、というのが実情なんじゃないかな、と考えたりもします。
主演を努めたマリーナ・ディ・ジローラモはセクシャリティを超えた存在感があって良い、と思いましたが。