イギリス 2016
監督 ロジャー・スポティスウッド
原作 ジェームズ・ボーエン
ヤク中のストリートミュージシャンが野良猫との出会いによって再起する姿を描いた実話ベースの作品。
原作に登場する猫のボブがそのまま本人(本猫?)役で登場してることが話題をさらいました。
ま、猫好きにとってはたまらん映画だろうなあ、とは思います。
撮影用に手配された猫じゃないというのに、実に愛くるしいんですよね、ボブ。
なんせ動物相手ですんできっと撮影の苦労はあったんでしょうけど、映像を追う限りではまるで猫自身にちゃんと意志があるかのような動きを見せてて、猫の名優かよ!とあたしゃ思わずつっこんだりもした。
人が好きな猫なんでしょうね。
じゃなきゃ飼い主でもない俳優の肩に飛び乗ったりなんてまずしない、と思うんですよ。
ボブをそのまま使おう、と決断した制作陣の判断が正解だったのは確かですね。
私はどっちかというと猫派なんで、ボブを見てるだけで楽しかった、というのが本音だったりはするんですが、それだと映画評はおろか感想文にすらならない気もするんで、さあ、どうしたものか、と。
ボブがかわいくて最高!で終わりたいところなんですけどね、そうもいかないのが辛いところ。
まーあえてぶっちゃけてしまうなら、実話であることを鑑みたとしても「ヤク中のセラピーには動物が功を奏する場合もある」という事実以上のことを、なにも描けてないのがこの作品の最大の難点だったりはするでしょうね。
偶然ボブが変わった猫だったことが主人公を自暴自棄な生活から救った、で終わってるんです。
ドラッグやめられました、と。
ボブがいつも肩に乗ってくれてたおかげでみんなの話題になって本も出せました、お金も入ってきました、と。
で、それからどうした?ってのが一切ない。
すべての偶然が主人公にうまく働いただけ、なんですね。
そこに人の心を揺さぶるなにかがあるわけでもなければ、意味深に暗示するものがあるわけでもない。
辛辣に言ってしまうなら、周りが勝手に騒いで有名になっちゃった人のサクセスストーリーでしかない。
仲違いしていた父親との再会シーンとか、見せ場がないわけではないんですが、やっぱり見る側が期待することって、創作を超えた現実の凄みだと思うんですよね。
残念ながらこの作品にその手の驚きはない、と言わざるをえない。
主人公とボブの友情がすべて、な一作ですね。
それはそれで素敵なことなんでしょうが、さして猫になんの興味もない人が見た場合、どう感じるかを考えた時、凡庸さは隠しきれないようにも思います。
「動物もの」カテゴリーの映画、というのが私の総評。
いっそのことドキュメンタリーだったら素直にボブだけを愛でてられたのになあ、なんて思ったりもしました。