レリック 遺物

2020 オーストラリア/アメリカ
監督 ナタリー・エリカ・ジェームス
脚本 ナタリー・エリカ・ジェームス、クリスチャン・ホワイト

認知症を発症したのでは?と疑われる高齢の母親の元を訪れた娘と孫の身に降りかかる、不可解な現象を描いたスリラー/ホラー。

認知症とか徘徊とか、その手の痛ましい病をネタにエンタメはやばいだろ、と思うんですけどアメリカはあんまりそういうの気にしてないみたいで。

ハリウッドが恐ろしく敏感になってる多様性だとか暴力だとかよりも、ずっとデリケートな問題だと思うんですけど、文化、風土、人種の違いなんでしょうかね、やっぱりこれって。

そういえばテイキング・オブ・デボラ・ローガン(2014)なんて映画もあったなあ、とか。

確かに人が壊れていくプロセスって、恐怖そのものなんですけど、実際に介護問題が目前に迫った世代としてはそれをデボラ・ローガンみたいな扱いで処理されちゃうと少しイラッとする、ってのはある。

また似たような感じなのかなあ、嫌だなあ、でも評価高いしなあ、とか考えながら恐る恐る見進めていったんですけどね、まず最初に感心したのは、安い恐怖演出、虚仮威しに囚われてないこと。

不気味ではあるんですけどね、想像以上に真面目なタッチでぎくしゃくとした母娘の関係性、相互理解の及ばなさ、病に対峙する娘や孫の心情が訥々と描かれてるんですよね。

さあ、怖がらせてちょうだい!と思ってる人たちにしてみたら、地味と感じるのではないか、とすら思える落ち着きぶりでして。

若い人なんかはそこで振り落とされてしまうのかもしれませんけど、私は現実的であることに主眼をおいて、まずは登場人物たちの内面を掘り下げていこうとする手法に好感をもった。

わかりやすい煽り方をしないんで、小さな違和感が、病ゆえのものなのか、それとも屋敷に隠された謎に由来するものなのか、判別つかないんですよね。

なんとも不穏。

地に足の付いたリアルな作劇が物語の着地点を不透明にしているんです。

あれ、ひょっとしてこのまま母の介護の話で終わっちゃうの?みたいな猜疑心すら湧いてくるほど。

で、それを全部ひっくり返してくるのが終盤のシナリオ進行でして。

見せない恐怖の演出、仕掛けられた伏線(ばあさんのメモとか)がすべて実を結びだす。

衝撃的だったのはエンディングですね。

結局は「呪い」みたいな感じで話がまとまってしまうのかなあ、と思いきや、凄いシーンを監督は最後に用意してて。

ああ、これは老いの招く怪物を具象化した物語だったのだ、と私は得心。

屋敷の謎がどうこうではなくてね、孤独と狂気の果てに老人が行きつく場所を、救済とも絶望とも区別付かない形で「変異」と捉える発想に私は舌を巻いた。

しかも更に強烈だったのが、その時、娘はどうしたのか?の描写。

なんだこの静謐さは、と私は少し鳥肌がたった。

そんな風に安寧を求めてしまうのか、と少なからずショックをうけましたね。

見事、の一言ですね。

認知症を題材に、恐怖を紡ぐってのはこういうことだと思った。

最初の先入観、安直な想像を軽々と飛び越えてきた傑作。

真正面から病を描くのも必要かとは思うんですが、こういう形で昇華させるからこそ伝わるものもあると思いましたね。

すごい新人監督が出てきたな、と驚きました。

中高年向きかもしれませんが、見る人が見れば質の高さは実感できるはず。

おすすめですね。

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