サインはV

1968年初出 神保史郎/望月あきら
アイランドコミックス 1~3巻(全4巻)

1964年、東洋の魔女と呼ばれたニチボー貝塚バレーボールチームが東京オリンピックにて金メダルを獲得したのをうけ、一気に全国的なブームとなった女子バレーの世界を描いたスポ根漫画。

当時は週刊マーガレットで連載されていた「アタックNO1」と双璧をなす人気を誇ったらしいです。

私がこの作品を手に取ったのは、望月あきらが作画を担当していたのを偶然知ったから、でして。

ゆうひが丘の総理大臣はこんな仕事もやってたのか!と。

しかしまあこれが少女誌に連載されてた、ってのもすごい話だなあ、と思いましたね。

少女漫画畑出身の人ですから、作画や台詞回し、キャラクター作りに大きな違和感はないんですけど、やってることが「巨人の星かよ!」とつっこみたくなるような正統派のスポ根なものですから。

いや、稲妻落としやX攻撃といった必殺技が登場するあたり、侍ジャイアンツ(1971~)と近い、と言ったほうがいいか。

物語は特訓に次ぐ特訓の末、ようやく編み出した必殺技をライバルたちに破られてまた特訓、の繰り返しで進行していきまして。

汗と涙と努力と勝利がこれでもかと鬼盛り状態。

ラブロマンスなんて欠片もありゃしません。

エースをねらえ!(1973~)みたいにコーチとの叶わぬ恋みたいなのが盛り込まれてるのかな?と思いきや、そんなの気配すらない、ときた。

少女読者は、ある意味で男臭いともいえるこの作劇に、ほんとに共感できてたのかなあ?と少し疑問に感じたり。

ま、その男臭さのおかげで門戸は広く開放されてる、と言えるかもしれません。

私みたいなおっさんが読んでても、結構熱くなるんですよね。

体に小ささゆえに人の倍以上の努力を己に課す主人公、朝岡ユミのけなげなひたむきさにはわかっていても胸打たれるものがありましたし。

70年代ならではの悲劇的展開もドラマをたくみに盛り上げてて。

ジュン・サンダースを襲う不運なんてひどすぎて作者に文句を言いたくなったほど。

GIベビーの孤独を、バレーというスポーツを通じて救ってやるという、いわば世論に一石を投じる試みをしておきながら、この顛末はなんなんだ、と。

編集部に抗議の手紙が殺到したのではないか?と思うんですけど、えーと、入れ込みすぎですかね、私。

なんせ50年近く前の作品ですんでね、もちろん古臭さはあるんですけど、スポ根というジャンル漫画が必要とする要素は全て兼ね備えているし、巨人の星をその嚆矢として比較したとしても、追い越せないまでも全く見劣りしてない、と思いましたね。

しかしこれを全くバレーボールのことを知らない2人組が描いた、というのが信じられないですね。

懐かしさで手に取ったら思いのほかはまってしまった、そんな作品だと思います。

望月あきらという漫画家のプロの凄みをどこか感じた一作でしたね。

タイトルとURLをコピーしました