バディドッグ

2017年初出 細野不二彦
小学館ビッグコミックス 1~5巻(全11巻)

アメリカ国防総省が秘密裏に開発した世界最高水準のAIの中核をコピーされたと思しきペットロボットを、なぜか預かる羽目になってしまった中年サラリーマンのドタバタを描いたホームドラマ。

やってることはGU-GUガンモの大人版、に近いように思いますね。

突き詰めるなら藤子F不二雄の系譜なんですけど、藤子先生ですらオバQやドラえもんの大人版(劇画オバQを除く)は描いてないんで、これは新しい試み、と言っていいのかもしれません。

作者にとって得意とするテリトリーなのでは、と思うんですが、思ってた以上にコメディ色が希薄な上、大人の目線を通じた社会と家庭を中心に物語は進んでいくんで、ちょっと意外だった、ってのはありました。

とにかく現実味を損なわぬよう、あれこれ腐心してるのが伝わってきましたね。

なんせビッグコミック掲載ですし、読者は多分40代、50代がメイン「そりゃ、ねえわ」と思われたらもう終わりですしね、SF的な飛躍や悪ふざけにも色々と気を使った面があったのかもしれません。

流行りのAIに着目したのは無難だった、と思います。

現実世界の延長線上に実現しそう、と思わせる信憑性がある。

SF好きな私のような人間からしたら、いささか物足りない部分もあるんですけど、電波の城みたいな重苦しいシリアスさで攻めてこられるよりはずっとマシ。

久しぶりに単行本買ってみようかな、と思いましたし、実際、読んでてなんだか懐かしい感覚に浸れましたしね。

そうそう細野不二彦って、こんな感じだった!みたいな。

ただね、酷すぎることを書くようですけど、作者のノリというか感覚がね、あまりに昔のままで、ひどく古めかしく感じられる、というのは正直あった。

時代遅れにならぬよう、細部までリノベーションされてるんですけど、壁紙一枚剥がしたら使われてる柱が築50年は経過してた、みたいな。

こればっかりはもう仕方がない、と思うんですけどね、作者も還暦ですし。

むしろ、還暦を迎えているのにも関わらず全然仕事が荒れてなくてびっくり、と言ったほうがいいのかもしれない。

普通に面白いのは確かです。

面白いんですけど、作者のことを知らない世代に希求するものがあるか?というと微妙なところかもしれません。

なんだかね、電波の城に頓挫して、しばらく細野不二彦から離れているうちに、あたかも玉手箱の蓋が開いてしまったかのような、そんな錯覚に私は襲われましたね。

玉手箱を開けたのは、他ならぬ私自身なのかもしれないですけど。

現状、なんとなく続刊に手を出すのをためらっている状態。

あるがままを良しとしないファンの欲目なのかもしれませんが、これまでの作風を裏切って、見知らぬ場所に屹立する作者の漫画を読んでみたい、と少し思ったりはしました。

良い悪い、って話ではないです、シリーズ自体が衰勢なわけでもないですしね。

ああ、なんだか定まらぬ評価ですまぬ。

かつて熱狂した漫画家の、決して低調ではない晩作を見極めるのは難しい。

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