電波の城

2006年初出 細野不二彦
小学館ビッグコミックス 1~9巻(全23巻)

テレビ業界でのし上がろうとする地方ラジオ局の女子アナ(主人公)の奔走を描く立身出世ドラマ。

業界暴露もの、ウンチクものっぽい傾向もあるんですが、作者が、他のヒット作を参考にするでなく、目先を変えて自己流にアレンジするでなく、真正面からオリジナルな作品を作ろうとするのは長編だと初めての試みではないか、と思ったりもします。

私が知らないだけで類似する作品はあるのかも知れませんが、ちょっと思い当たらないですね。

下調べにものすごく時間を費やしたんだろうなあ、というのは読んでてすぐに分かります。

それこそ、闇金ウシジマくん(2004~)並に取材しまくったんですか?と聞いてみたくなるほど。

ギャグやキャラに依存することなく、実に丁寧に錯綜するストーリーを編み上げている印象を受ける。

私は格段、テレビ業界に興味があるわけではないですけど、知らない世界の裏側を、こうももっともらしく描かれると自然にページをめくる手も熱を帯びてくる、というもの。

圧倒的にうまいのは確かですね。

さすがは細野不二彦、見事なストーリーテラーぶりだ、と感心。

で、そのまま地方局の女子アナが手段を選ばずのし上がっていく様子を、ユーモアにくるみながら描いていってくれればよかったんですけど、なんだか途中からシナリオの方向性がだんだん怪しくなってきまして。

悪徳のピカレスクロマンみたいな感じにしたいのかな?と訝しんでたら、過去を振り返る回で狂信的な宗教団体の存在が浮かび上がってきて。

かつて主人公は、どうやらその宗教団体に否応なく関わりをもたせられてたよう。

主人公の性格が破綻気味なのは生い立ちのせいもある、みたいな感じで徐々にそのパーソナリティがつまびらかになっていくんですけど、もーねー、そういう因縁みたいなのを持ち出されちゃうと、これまで笑えてたシーンも笑えなくなってきちゃうわけですよ。

重い、そして暗い。

だって下手すりゃ「不思議ちゃん」で済んでたことが「病んでる」とイコールになる可能性もそこには潜んでるわけですから。

それが駄目だとはいいませんけどね、私は作者にその手の重厚でドロドロな人間ドラマを期待してないのであって。

ああ、今回もまた「物語がシリアスになればなるほど、読んでてしんどくなる」という作者の癖がじわじわとにじみ出てきたか、と。

極端すぎるかもしれませんけどね、ごめんあそばせみたいな感じで笑いも交えながらドラマを演出することもできた、と思うんです。

なんで救いのない方へ、ない方へとストーリーを進めていくのか、と (最後まで読んでないんで断言はできないですけど) 。

9巻にて頓挫。

作者の漫画で途中から読まなくなったのはこの作品が初めてでしたね。

あ、ダブルフェイスがあったか。

ま、ダブルフェイスはどうでもいいや。

23巻もの長期連載を誇ったことを振り返るに、きっと9巻以降も読み応えたっぷりだったんだろうなあ、と想像するんですが、私はこの手の「陰」な作風って、作者の美点を殺してるとしか思えないんで最終的な評価は全巻読破した方々におまかせします。

ただ、現実問題としてこのシリーズが、巻を重ねれば重ねるほど売れなくなっていったのは事実。

5巻ぐらいまでは書店で平積みだったんですよ。

10巻以降なんて大きな書店に行かないと発見できない状態でしたから。

もちろん数字がすべてを語るわけではありませんが、みんなが求めてる細野不二彦はこれじゃないんだよ、と自分のファン気質をつい肯定したくなったり。

今、あらためて考えるなら時代と格闘してたのかもなあ、などと思ったりもします。

80年代ニューウェーブの旗手も画業25周年超えてましたから。

従来のファンが求めているものと、若い読者が読みたいと思うもの、そこにギャップがあって当然ですし、作家性に私は幻想を抱きすぎてるのかもしれません。

だから読み直そう、とまではいかないんですけどね、いや、すまん。

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