2017年初出 森田るい
講談社アフタヌーンKC
個人で民間ロケット打ち上げに執念を燃やす主人公かずきと、いつの間にやら巻き添えになるOLカナエの危なっかしい挑戦を描いた宇宙ロマン。
ああ、これはあさりよしとおのなつのロケット(1999~)だ、と思いましたね。
国家がやらねえなら俺達が自分の手でやる、と誓った少年の心を忘れぬ男たちの無謀な挑戦が、現実にインターステラテクノロジズ(株)の立ち上げによって今少しづつ前進していますが、その原初の衝動を違う角度から漫画にしたのがこの作品じゃなかろうか、と。
作者が巧みだったのは、ロケット打ち上げの目的を実に他愛のない用向きとして設定したこと。
作中でカナエもつっこんでますが、もう「バカなのか?」ってレベルなんですよ。
そんなことのためにロケット打ち上げるやつがどこにいる!みたいな。
けれど、バカゆえにその情熱が愛おしい、ってのはえてして真理だったりもして。
大ヒットを記録した怪物映画、カメラを止めるな!(2018)なんて、まさにそうですよね。
ご立派なお題目があるわけじゃないけど、ひとつのことを成し遂げるために必死になる姿に人は共感するわけで。
カナエの目線を通して、読者はいつのまにか「できるはずがない」ことに心血を注ぐかずきに同調していきます。
気がつきゃ権力をも敵に回して、それでもロケット打ち上げに協力しようとするカナエ自身はまさに我々そのもの。
心の奥底で消えかけていた、夢見る心に火がつくんですよね。
もうね、最終話間際の展開なんて、まるで映画でも見ているかのようなドラマチックさですよ。
ここに愛だの恋だのを絡めてこない潔さもいい。
ラストシーンのすっぽぬけた感じも見事。
コストや労力を考えるなら無駄でしかないことを、よりにもよって宇宙空間でやらかしちゃう絵面がなんとも胸を打つ。
線の細い簡素な絵柄に好みは分かれるかもしれませんが、こりゃ大人のための良質なおとぎ話だ、と思いましたね。
初連載作品でこれだけのことをやってのけた森田るい、今後注目の漫画家だと思います。
抑えておいて損なし。