ギャラリーフェイク

1994年初出 細野不二彦
小学館ビッグコミックス 1~32巻(以降続刊)

コンスタントにヒット作を多産していた作者ですが、青年誌における細野不二彦の名を不動のものにしたのが本作でしょうね。

この漫画で揺るがぬステイタスを築いた、ってのも凄い話なんですけど。

というのもですね、私は以前、作者のことを「ヒット作を換骨奪胎すること」に長じてる漫画家、と書いたんですが、本書に限っていうなら、まさかここまで露骨にやるとは思わなかった、ってのが本音だったりするからなんです。

だってね、もー、明らかに小池一夫/叶精作のオークション・ハウスの亜種なんですもん。

美術品の世界を描いた漫画って、オークション・ハウスが嚆矢で、他にはほとんど見当たりませんから、ジャンルがかぶっただけ、とファンからは抗弁されるかもしれませんが、美術界の裏を描いていて、闇取引きも辞さぬ美術商ながら美の奉仕者でもあるという主人公のキャラ設定を鑑みるに、これを似て非なるものと言い切るのはあまりに厚顔無恥すぎて政治家でも無理だ、って話であってね。

よくぞまあ小池一夫は黙殺してたな、と思いますね。

キル・ビル(映画:2003)程度ですら訴訟騒ぎに発展したのに。

なにか私の知らないところで手打ちがあったのかもしれませんけど。

ただ作者が上手だったのは、オークションハウスにおける主人公、柳宋厳がどんどんマッチョ化していくのに反して、本作の主人公、藤田玲司は非力で頭脳派であることを貫いた点にあると言っていいでしょう。

美術商(真っ当ではないけど)なりのプロフェッショナリズムに徹しているんです。

これって、手塚先生のブラックジャックと同じ構造なんですよね。

決してカタギとは言えないが、本人なりの信念、美学があって、アウトサイダーながら自分を偽らずに生きているかっこよさがある、みたいな。

アンチヒーローっぽい立ち位置が、美術界だけの話から、美術にまつわる人間のドラマへと発展していく余白を含みもたせてるんです。

なるほど、掛け合わせできたか、と。

あとは方程式ですから。

そりゃドクター・キリコも登場すりゃあ、ピノコも誌面を賑わすでしょうよ、と。

美術品のうんちくに毎回心血注いだのも、よく頑張ったよなあ、と思いますね。

これ、相当勉強しただろうし、色んな資料と取っ組み合いになったであろうことは想像に固くにない。

なにより絵画を漫画化する、って相当な勇気が必要だったと思うんですよ。

やっぱりね、どんなに画力があっても怖いと思うんです(叶精作も怖かったんだろうか・・)。

だって本職のプロは否定するに決まってるんですから。

言い訳の余地が与えられない場所で勝負するのは漫画家としての矜持であり、潔さの表出だと思うんですね。

仕事のアシスタントとしてサラ(さしずめピノコか)というド素人を藤田の側に置いたのもうまい。

この物語にラブコメ的な要素すら加味するのか!と。

そりゃこれだけの十重二十重な布陣で面白くならないわけがない。

私は冒頭でこの漫画のことを亜種と書きましたが、亜種もここまで緻密なリサーチ、分析をもとに作り上げてられてたら、むしろ本歌取りと言っていいとさえ思いましたね。

唯一残念だったのは、終わりらしい終わりを見せつけずして32巻で連載が終了してしまったこと。

え、終わったの?って感じなんです。

もうちょっとやりようがあったのでは・・・ともやもやしてたんですが、2016年に突如続巻が発売。

終わってなかったのかよ!って。

現在もスローペースながら連載は続いているようです。

この先いつか本当の完結を迎える日が来るのかどうかわかりませんが、代表作と呼んで差し支えない一作でしょうね。

入り口としては最適なシリーズかもしれません。

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