太郎 TARO

1992年初出 細野不二彦
小学館ヤングサンデーコミックス 全24巻

地銀に勤めながらもプロボクサーとしてチャンプを目指す、主人公太郎の二足のわらじ生活を描いたサラリーマン/ボクシング漫画。

プロットは悪くない、と思うんです。

ボクシング漫画というと名作目白押しですし、それを踏まえて90年代に何ができるか?を考えたとき、地に足をつけた草食系の現実派が兼業ボクサーとして名を成していく、というのは時代に即してる、と思いましたしね。

ジョーみたいな野獣派の破滅型じゃないとボクシングはつとまらない、ってわけでもないですし。

ただ太郎の職業が地銀、というのがねー、懸念材料だったりはしまして。

普通に考えてプロボクサーが務まるような職業じゃないです。

私の知人が地銀勤めなんで、そのあたりは詳しく知ってるつもり。

せいぜい新人王クラスで満足するなら話は別ですけど、銀行勤めながら世界チャンピオン目指すとか、舐めてんのか、って話ですよ(それは作中でも指摘されてましたけど)。

それこそ井上尚弥を超えるぐらいの天才じゃないと、とてもじゃないけど無理。

で、そういう漫画なのかな?と思いきや、序盤でいきなり太郎、デビュー戦で敗退、ときた。

いやいや才能に恵まれてねえじゃん!みたいな。

なのに太郎は頑なに両立を目指そうとする。

自分のことが見極められない阿呆を描いた漫画なのか?これは?と。

自らの不注意のせいで死なせてしまった天才ボクサー、花形の遺志を継ぐという強い決意が太郎の心の奥底では燃え盛ってるようなんですが、それならなおのこと地銀なんかで働いてる場合じゃないだろう、と。

二兎を追って自滅する典型例じゃないかよ、って。

どうも作者は「到底成し遂げられそうにない無理難題に、果敢に挑む若者」を描くのが好きみたいですが(ママもそうでしたし)何事にも程度ってのがあるわけで。

一定の条件下でのみ、奇跡的に成功するような事象を、努力と根性でなんとかしようとする凡人の物語なんてしんどすぎて読んでられんわけですよ。

せめて銀行業務に関してはベテランはだしの才覚を見せつけたとかね、なにか秀でてるものがあって、それがボクシングの助けになっていたら、逆転の構図が面白かったかもしれませんが、全てにおいて太郎は平均点、ときた。

なにをどうしたいんだよ、細野不二彦よ、と。

ボクシングに邁進する場面と、銀行業務に勤しむ場面がほぼイーブンなのも気にかかった。

太郎の生き様そのものを全部見せたかったんでしょうけど、読者は銀行勤めのサラリーマン漫画が読みたいんじゃなくて、ボクシング漫画を読みたかったはずだと思うんですね。

ひたすら痛々しいなぜか笑介(1982~)をヤングサンデー読者が心待ちにしますか?ってことですよ。

正直、なんて心躍らないボクシング漫画だろう、と思いましたね。

また、作者が、明らかにボクシングよりも銀行の内幕を描くほうが楽しそうな感じでして。

一部、ボクシングを誤解してるようなシーンすらあって。

私の場合、世代的に、ジョーを通過して、がんばれ元気を経て、はじめの一歩にたどり着いてる読者なものですから、どうしてもボクシングというと熱くなってしまいがちなのは自分でもわかってるんですけど、なぜこの漫画が24巻もの長期連載を成して、小学館漫画賞を受賞したのか、真剣にわからないですね。

エンディング寸前の展開や、最終話の落とし所とか、ほんとにひどい、と思うんですけどね。

細野不二彦を偏愛してるがゆえに最後まで読み続けましたが、ボリュームの割には失敗作だと思う次第。

この人はシリアスになりすぎるとよくない、そんなことを考えたりもした一作でした。

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