ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナⅠ 天地黎明

香港 1991
監督 ツイ・ハーク
脚本 ツイ・ハーク、ユエン・カイチー

19世紀に実在した最大の武術家の一人、黄飛鴻のエピソードを独自に翻案した一作。

中国では有名すぎるほど有名な英雄的人物らしいんですけど、私は全く知らなくて。

何を成し遂げた人なのかもわからければ、何を後世に残した人なのかもわからない。

黄飛鴻を配役したドラマや映画が香港じゃあ大量に作られてるみたいなんで、日本で言うなら坂本龍馬クラスの傑物なのかな?と想像したりもするんですけど、なにがそこまで中国人を熱くしてるのかは結局よくわからなくて。

ネットじゃ断片的な情報が列挙されてるだけなんですよね。

洪家拳の達人で、医師でもあり、動乱の時代に欧米列強に媚びず、正義を貫いた人みたいなんですが、まあ、どうしたって日本人と中国人では受け止め方に温度差が生じてきますよね。

それはそのまま映画のスタンスにも如実に反映されてて。

「あの黄飛鴻だよ?知ってるでしょ?!」って感じで余計な説明は一切排除されてるんですけど、私みたいな不勉強な人間からすると、いや、ジェット・リーだよね?としか言えなくて。

そういう意味では普通に清国の租界時代を舞台としたカンフーアクションとしか思えない。

監督のツイ・ハークもあえて濃密なドラマを盛り込もうとしてないですしね。

アクションにつぐアクションで、新たな黄飛鴻像を作り上げるべくエンタメに徹してる節がある。

なんせ少林寺(1982)以降、低迷が続いていたジェット・リーを再びスターダムにのしあげた映画ですから。

香港じゃあ古装片(コスプレみたいなもの)ブームまで巻き起こしたらしいですし。

とりあえず、黄飛鴻がよくわからなくても普通に楽しめる作りにはなってますね。

私が感心したのはツイ・ハークがハリウッドっぽい手法でカンフー映画を撮ってること。

あ、ちゃんとシナリオに沿って計画的にカメラ回してるな、ってのがわかるんです。

香港ならではの行きあたりばったりなルーズさが皆無。

監督はワイヤーアクションでも有名ですが、それすらも従来の香港映画とは一線を画してるように思った。

細かいカットをつなぎ合わせながらも、連続性を阻害せず、不自然さを極力排除するという非常にレベルの高いことをやってる。

さすがは香港のスピルバーグ(褒め過ぎだと思うけど)と言われただけはありますね。

一言で言うなら、香港映画にしちゃあ妙に洗練されてる。

ヒットしたのも納得ですね。

あと、欲を言うなら、主演であるジェット・リーの演技がもう少しなんとかならなかったものか、と感じたりもするんですが、これは後追いで見たからこそ思うのかも。

義に厚く、曲がったことが嫌いな武門の長、に見えないんですよね。

童顔なせいもあるんでしょうけど、なんだかもうやることなすこと全然迷いがなくて。

人の上に立つがゆえの苦悩、憂慮みたいなものが全然透けてみえてこない。

困ったら実力行使、みたいな。

もう暴力に対する逡巡が全然なくて。

こういう場面で先に手を出しちゃったらまずいんじゃないか?と見てる側がひやひやしたりする。

こいつ、単にやんちゃ坊主なのでは・・・と思えてきたりもするんですよね。

細かな演技指導がなかったのかもしれないですし、監督がそれで良しとしたのかもしれませんけど。

まさか黄飛鴻が「本当にそういう人物だった」ということはないと思うんですけど。

個人的には助演を努めたユン・ピョウのほうがはるかにいい演技をしてた、と思うんですが、さて。

ジェット・リーの卓越した体術と完成度の高いアクションシーンは高く評価されるべき、と思うんですけどね。

余談ですけど、ツイ・ハークはラブロマンスを撮らせた方が本領を発揮するのでは、という気も少ししました。

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