2016年初版 TAGRO
太田出版
イキガミ様と呼ばれる不老不死らしき中年の男性を崇める文化のある、とある港町での日常を描いた群像劇。
ちょっと説明しにくいんですが、宗教漫画や民俗学ベースの寒村ホラーというわけではありません。
どっちかというとゆるいSF/ファンタジーに近い。
というのもイキガミ様と呼ばれる人物が、超常的でありながらも、限りなく俗物だからなんです。
いわく、退屈を持て余して小学生とゲームに興じたり、女子高生に乳見せろ、と迫ったり。
基本、イキガミ様は奉られはするものの、なにもしません。
やってることは無職の住所不定な中年の、暇を持て余したつまらぬ所業に限りなく近い。
そんなのがなんで崇め奉られるのか、さっぱりわからないんですけど、まあ、町の住人にとってはもはや伝統というか、旧習みたいなものなんでしょうね。
それが当たり前の風景、みたいな。
プロットそのものはなかなか面白い、と思うんです。
これで一向にミステリアスにならない、ってのも凄いと思いますし。
「神はただそこにあって、なにもしてくれないもの」という感覚も、とても同調できるものがある。
ただね、せっかく神をわざわざ擬人化したというのに、擬人化しただけで物語がそこからどこへも発展しないのはどうなんだろう?と。
生き神様のいる街が、普通の街と何が違うのか?を、何らかの形で提示しないことには特異な設定がなんの意味ももたらさない、と思うんですよ。
神を可視化できてるのは町の住人だけ、という解釈もできなくはないですが、だとしてもそれが何を意味するのか、物語からはっきりと汲み取れないですしね。
イキガミ様が居ても居なくても別に構わないじゃん、と読者に言わせる隙を与えてしまっちゃあ駄目だと思うんです。
作者がやりたかったことはわかるんですけどね、現状、あまりにもとりとめがない。
つい、だからなんなんだ?と問いたくなってしまう。
結果的に「雰囲気もの」になっちゃってる気がしますね。
嫌いじゃないんですが、広い層に訴えかけるのはなかなか難しいんじゃないかと思いますね。