中国 2013
監督 チャウ・シンチー
さしずめハリウッド風に言うなら、西遊記ビギニング、といったところでしょうか。
チャウシンチーの作品ですんで、多くの人が期待するのは「少林サッカー」であり「カンフーハッスル」のような、ありえねー香港アクションかとは思うんですが、本作、いわゆるカンフーらしい組み手みたいなものはほとんど出てきません。
普通に西遊記を題材にしたアクションファンタジー。
そういう意味では肩すかしを感じる人も居るかもしれませんが、これがですね、カンフー抜きとはいえ、意外に良くできてるんです。
天竺に向けて旅立つ前の修行時代の三蔵を主役に据えて、孫悟空を弟子にするまでが描かれてるんですが、西遊記などという手垢のつきまくった物語をよくぞここまでうまい按配に焼き直したな、というのはありましたね。
シンチーらしい全編にちりばめられたギャグも楽しいんですが、三蔵を役立たずの妖怪退治に設定したのも巧かったと思う。
こりゃいつまでたっても旅は始まりそうにないな、と観客を弛緩させるのが狙いだったとしたらとんでもないな、シンチー、と思ったりもしました。
と言うのもですね、この作品、終盤で仰天の展開が待ち受けてるんです。
私、完全に油断してたんで不意をつかれて涙腺が決壊してしまいました。
なんでこんな映画で泣いてるんだよ、と自分をぶん殴ってやりたい気持ちでいっぱいしたが、実はラブロマンスだった・・・なんて誰が思います?ねえ?西遊記ビギンズで?
いやしかしすごいドラマを作ってきたな、と正直思いましたね。
旅立つ前にこれだけのことがあったのだとしたら、三蔵は、すべてを許して3匹の妖怪をしたがえていたのだ、という事になる。
まさに御仏の慈悲の心に他ならないではないか、と私は震撼したりもしました。
宇宙空間に浮かぶ釈迦の絵とかアジア圏でしかありえない独特のCGも見どころのひとつ。
あとは見る側をはっ、とさせるような美しいショットが撮れれば言うことなしですね。
それがあればチャウシンチーはさらなる次のステージへと歩を進めることが出来るように思います。
いや、おもしろかった。
ありえねーアクションはありませんが、アジアならではのファンタジーであり、ぐっとくるコメディだと思います。