韓国 2018
監督、脚本 ホ・ジョンホ
16世紀の朝鮮王国に出没し、人心を惑わせた怪物ムルゲの巻き起こす騒乱を描いた時代劇。
朝鮮王朝実録に記されていた短い一節を膨らませた作品らしいんですけど、素直に良く出来てる、と私は感心。
まさにエンタメですね。
最近のハリウッド以上にツボを押さえている、と言っても過言じゃないかもしれない。
なんといっても上手だったのは、得体のしれない怪物を武人が退治する映画なのかな?と思わせておきながら、そこに王宮陰謀譚やら武侠ものやらのドラマを放り込んでちょっとしたミステリ仕立てで物語を綴ったこと。
観客は惑わされます。
あれ、ムルゲってホントは居ないの?居るの?どっちなの?みたいに。
まあ居なきゃ居ないでいいか、それでも十分面白いし、と途中で一旦は納得させられちゃうんですよね。
納得させてしまう作劇が、中盤においてすでに成立してた、というのもすごい話なんですけど。
中盤以降の展開は怒涛。
伏せられていたカードが次から次へとその表面をあらわにし、息つく暇もあたえてくれません。
それだけで小話として楽しめそうなエピソードを惜しげなく放り込みながら、ストーリーは奥行きを増して激動のクライマックスへ。
期待は裏切りませんよ、ってことだよ、畜生め。
キャラクターの動かし方がうまい、というのも美点。
やっぱりそう来たか、と思う部分もあるんですけど、誰一人として放置されてないし、無駄なことやってるやつが一人も居ないんですよね。
これが盛り上がらないわけがない。
スリル満点のアクションシーンに、さりげないラブロマンスをたった数行の会話で盛り込んでくる手管にも舌を巻きましたね。
いったいどこまで余念がないんだと。
終わってみれば、ああ面白かった、の一言。
こういう映画がふいに出てくるから最近の韓国は侮れない。
惜しむらくは、いささか端折りすぎ、と思われるシークエンスがいくつかあったこと。
領議政役の顛末や、調隼坊の世話役の老人の話はもっと尺を割いたほうが物語の厚みが増したと思うんですが、なにか制約でもあったんですかね?
力量からして、できないことではなかったと思うんですけどね。
どちらにせよ、これなら2時間以上あってもおそらく緊張感は途切れない、と思った映画はホント久しぶり。
しかし、はからずもコロナ禍にあえぐ世界とシンクロするような設定はタイムリーだったと思いますね。
優れた作品は時として、現実を物語世界に引き寄せ、オーバーラップさせたりもする。
オススメですね。
アクションもドラマもサスペンスも全部まとめて楽しめる安定の1本。