イギリス/アメリカ 2019
監督 サム・メンデス
脚本 サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ

第一次世界大戦中の西部戦線を舞台に、将軍の命令書を携え、最前線の部隊へと伝令に走る若き二人の兵士の姿を描いた戦争ドラマ。
伝令の内容は「攻撃中止」。
実はドイツ軍が前線で待ち構えていることが航空写真で判明したんですね。
この事実を明日の朝までに伝えられないことには1600人の兵士を見殺しにしてしまうことになる。
なんだよ、おい「走れメロス」か!って話だ。
そりゃ俄然前のめりにもなりますよ。
なんせ兵士二人には十分な武器も食料も支援もない。
まだ敵の残党が居座ってる可能性もある戦地を、己の二本の足だけで駆け抜けねばならんわけだ。
どう考えたってドラマチックにならないはずがない。
うわー、もう絶対二人ともボロボロになるんだろうなあ、エンディングはおそらく涙腺決壊なんだろうなあ、と私はオープニング早々身構えましたとも、ええ。
とりわけ監督が巧みだったのは、兵士の旅路をビデオゲーム感覚で描写していったことでしょうね。
これはワンカット撮影風に見せかけた映像が効果的だった、ということなんでしょうけど、どこか主観撮影っぽい質感があって。
あたかも観客が、ゲームのプレイヤーになったような感覚を抱いちゃうんですよね。
若い人を取り込む上で、この手法は聡明だったと思いますね。
100年近く前のお話なのに、古臭さや懐古的な匂いがしないんです。
むしろモダンに感じたりもする。
戦時下であることの痛ましさや生々しいリアリズムには気を配られてて、土中から手が生えてたりとか、ぎょっとするシーンもあるんですけど、それらを包括するエンターティメント性があることに私は感心。
サクサク見れてしまうことに懸念を抱く人もきっといるんでしょうけど、こういうやり方もあったのか、と唸らされたり。
ただ、切れ目なくシーンをつないでいくことにこだわりすぎた弊害も少なからずあって。
やっぱりね、この場面はカットバックで盛り上げて欲しかったとか、弾着を最後までカメラで追って欲しかったとか、見進めていくうちに気になってくる箇所も出てくるんですよ。
おそらく、面白かったけどなんだか盛り上がらなかった、と言ってる人はカメラワークの制約が気になったからではないか?と思うんですね。
難しいところだと思うんです。
連続性を保つことにとんでもない努力を重ねてることはよくわかるし、だからこそ娯楽性をも獲得できたんでしょうけど、それが同時に表現の上限を設ける結果にもなってしまった。
特にエンディング、あれはあれでいいんでしょうけど、撮り方次第ではもっともっと劇的になったと思うんですよね。
取捨選択の問題だとは思うんですが、定められたルールに沿って勝負した結果、ここまで話題になったんだからきっとね、間違ってはいなかったんだと思います。
あとは見る人がどこに重きを置くか、でしょうね。
ちなみに私が唯一気になったのは、前線部隊までおよそ何キロぐらいあるのか、作中で言及されてなかったこと。
ひょっとしたら見落としてるのかもしれませんが、後から調べてもわからなかったんで、多分重要視してない、ってことだと思うんですよね。
これ、大事だと思うんですけどね。
距離がわかってたら、テレビドラマシリーズ「24」のように、あと何時間、とかテキスト表示しようと思えばできたわけで。
さすがにそこまでやるのはあざとすぎるかもしれませんが、見ててふと疑問が湧いたりするわけですよ。
「のんびり歩いてて大丈夫なのか?」とか「気を失ってたけど、間に合うのか?それで?」とか。
しいては「結局、間に合う前提なの?」などと、いらぬ勘ぐりをしてしまう羽目に。
臨場感もあったし強い現実味も併せ持ってた、と思うんですが、改善点があるとすればそこなんじゃないか、と思ったりはしますね。
ま、見てみる価値はある一作じゃないでしょうか。
戦争映画はしんどくて苦手・・・という人もこの作品なら受け止められるのでは、という気がします。
私はこの内容で、決して戦争をドラマの盛りたて役にしてないことを評価したいですね。