ジャスト6.5 闘いの証

イラン 2019
監督、脚本 サイード・ルスタイ

麻薬密売組織のボスを検挙すべく、執念の捜査を展開する刑事を描いたクライム・サスペンス。

いきなり冷めるようなことを書くようですが、目新しいことは何一つやってません。

色んな国の、色んな監督が、これまで幾度となく題材としてきたネタ、と言っていいでしょう。

なのにこれが手垢感を感じさせず、やたら面白いんだから本当に大したもの。

イランという、民主主義が確立されているとは言い難い独裁国家における警察と犯罪者の攻防が、欧米や日本とは違っててやたら興味深かった、というのはもちろんあるんですが、特筆すべきはデティールにこだわり、主人公刑事の内面や彼を取り巻く状況、組織のボスの人間性やその家族のドラマを臨場感たっぷりに描ききった点にある、といっていいでしょうね。

しいてはそれがイランという国の抱えた深刻な貧困問題にまで光を当てる。

序盤、その存在すらおぼろげな組織のボスを特定するために、いきなり地域の浮浪者全員を検挙する場面には度肝を抜かれます。

これが西側諸国だったら人権問題で大騒ぎなんじゃねえかと思える警察の強権ぶり。

売人と思しき一家の家宅捜査に乗り込む場面も、容疑者家族の見てくれのギャップが強烈で目が離せません。

ただ、そんな警察も、裁判官?(警察社屋にしれっと居てたりする)のような存在には頭が上がらないらしく「重箱の隅をつついてるだけじゃねえかよ」と思えるような内部調査には振り回されっぱなし。

裁判官の追及をかわしながら非合法ギリギリ(あくまでイランの基準で、ですが)で捜査を進めていく展開にやたらスリルがあって。

犯人が検挙された後の展開も全くダレることなし。

もう、公然と警察官に買収を持ちかけてくるんですよね、罪人が。

正義の所在とか、倫理観とか、あれこれ悩んでる暇なし。

その場の判断が事態の風向きを一瞬で変えてしまう。

とにかく一切テンションが途切れないんです。

むせっかえるような熱量で、次から次へと重量級の見せ場を、矢継ぎ早に俎上へ乗せていくのがなんとも圧巻。

錯綜するストーリーラインを破綻なくまとめ上げ、それぞれのエピソードが主筋に対するフックになってるのも見事。

気がつけば、組織のボスや警察官の「人となり」が善悪を超えて理解できるようになってる。

もう、人間ドラマの領域に手をかけてたりするんですよね。

更に凄かったのは、最後に死刑執行の場面まで描ききったこと。

こんな感じで刑が執行されちゃうの?というのにも驚きだったんですが、露悪的すぎるのでは・・という躊躇すらないのがなんとも恐れ入るというか。

ラストシーンの意外な結び方すら吹き飛んでしまうレベルで全編肉弾戦(心理的に)な映画でしたね。

監督は半端な力量じゃないですね。

しかしイランからこういう映画がでてくるとはなあ。

検閲にひっかかりそうな気がしなくもないんですけど、そこは中国と同じで判断基準が外側からは理解不能なのかもしれません。

アスガー・ファルハディを筆頭に、近年のイラン映画の活躍は目覚ましいなあ。

パナヒの新作もこの機に乗じてメディア化してくれんものか。

おすすめの一作ですね。

最後まで一気に見れてしまうぞ。

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