MOONLIGHT MILE

2000年初出 太田垣康男
小学館ビッグコミックス 1~23巻(以降続刊)

SFが現実と地続きで、ありえたかもしれない世界を描くものだとするなら、0年代において最も優秀な1作と言えるのがこの作品でしょうね。

やっぱり現代を生きる我々にとって、60~80年代が夢想した「宇宙の旅」「スペースオペラ」って、きっともう現実にはありえないんだろうな、ってことをみんなうすうす感づいてると思うんですよ。

外宇宙進出に経費と労力を割けるだけの体力が世界にはもうない。

むしろ戦前に逆行しようか、という勢いで自国保護主義に傾倒していってる時代ですしね。

宇宙開発なんて、肝心のアメリカですら経費削減、計画の先延ばしを公言してるぐらいですし。

で、この作品が凄かったのは、あたかもそれを予見したかのように月開発を進めることのみに焦点を絞ってお話を組み立てていった点でしょうね。

化石燃料の涸渇は何十年も前から言われ続けてることですから、月に眠るヘリウム3を未来のエネルギーにする、という作中のプラン自体が「ひょっとしたらありえるかもしれない」とどこか思わせるものがあるんですよね。

ま、題材としては古くからあるネタですけどね、それをここまで丁寧に掘り下げた作品、ってなかったように私は思うんです。

現実味をなくさないための国際情勢に対する考察、科学技術面における下調べの緻密さも唸らされるものがありました。

決して荒唐無稽にならないんです。

何が出来て何が出来ないか、出来るとすればそれは結果的にどうなるのか、読者を未知の領域に導く筋立ての見事さときたら熟練の小説家レベル。

ともに見果てぬ場所を目指した親友2人を主役とし、双方がそれぞれの立場に翻弄されてはからずも敵対してしまうドラマ作りも素晴らしい。

第一部の面白さなんてページをめくる手が止まらず、時間を忘れてしまうほど。

太田垣康男って、こうも凄いストーリーテラーだったか?と驚かされることしきり。

ただ、私が少し残念に感じたのは第2部の展開。

一気に10数年が経過し、主人公の子供がキーパーソンとなるストーリーにシフトするんですよね。

好みの問題なのかもしれませんが、出来うることならわき見することなく吾郎とロストマンの物語でフィニッシュして欲しかった。

現在、連載中断中なのでまだまだこの先どう転ぶかわからないんですが、月を舞台とした本格SFとして最後まで走り抜けてくれんことを祈るばかり。

SFが好きなら読んで損はない、マンガ史に残るシリーズでしょうね。

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