スペイン 2016
監督、脚本 オリオル・パウロ

豪華なホテルの一室に居るのは青年実業家。
しかし室内のあでやかさとは裏腹に、彼は殺人容疑をかけられている。
ホテルの外にいるのはスペイン警察。
3時間後に迫った裁判を目前に、彼が逃亡しないよう見張るためだ。
そこに尋ねてくるのはすでに引退はしたものの、敏腕と名を馳せた老齢の女弁護人。
裁判でなんとか無罪を勝ち取るために、青年実業家が無理を言って呼び出したのである。
テーブルを挟んで戦略を練る2人。
女弁護人は言い放つ。
「一切の嘘はやめて。すべてを話して。でないと勝てる保証はない」
丁々発止のやり取りが事件の回想シーンを交えて緊迫感たっぷりの会話劇を紡ぎあげる。
彼らが解き明かそうとしているのは物理的に不可能な密室殺人。
犯人は誰か、そして真相はどうだったのか?が弁護人の超絶とも言える頭脳の冴えで少しづづ明らかになっていく・・・。
えー、なんでわざわざあらすじ書いてるのかというと、ミステリゆえ、下手に内容に触れられないから余白の文字埋めのため、だったりする。
すまん。
で、ですね、もう結論から言ってしまいます。
文句なしの傑作です。
近年、ここまで本格的なミステリを見た記憶はないです。
理詰めの台詞回しといい、破綻のないロジックといい、シナリオ構成の見事さといい、なによりもこの内容をホテルの一室ですべて展開してみせた手際といい、もう、鳥肌もの。
終盤の二転三転する真相への謎解きはまさに予測不可の一言。
実は密室殺人なんて大きな問題じゃないんですよ。
それ以上に仰天するオチが最後の最後には待ち受けてる。
伏線の貼り方や布石の打ち方も素晴らしい。
小さな状況説明や人物設定が全部後から意味を持ってくるんです。
また、私がこれは凄い、と舌を巻いたのがさりげなく仕掛けられた小さな演出の数々。
特に終盤、青年実業家のシャツを汚す染みなんて、その暗喩するものに思いを馳せ、見事!と膝を打った。
事件の状況が語りかけるもの、当事者が供述することで伝わる事実を、視点を変えて裏返してみればどうなるかに着目したスペイン屈指の推理劇でしょうね。
ラストシーン、本気で声が漏れた。
最後にそこをひっくりかえすのか、と。
断言します、見ないと損です。
小さな齟齬とか疑問とかないわけじゃないですけど、そんなものどうでもいい、と思えるぐらい練りに練られてます。
気持ちいいぐらい騙された。
完敗だ。