スペイン/アルゼンチン/フランス 2016
監督 ダニエル・カルパルソロ
脚本 ホルヘ・ゲリカエチェバァリア
綿密な計画を立てて銀行に押し入ったはいいが、銀行の貸金庫に現政府を転覆させかねないスキャンダルの記録されたハードディスクがあり、余裕で逃げ切れたはずが国家機関が大挙してでしゃばってきて四面楚歌、え?なに?これはどういうこと?スナイパーとか隣のビルにいるやん!聞いてないし!と慌てふためく強盗たち、さあどう事態を打開する!ってなクライム・サスペンス。
台詞回しの洒脱さと、キャラクターの描き分けはなかなか堂に入ってます。
なんだか手慣れてるな、って感じ。
強盗集団の主要4人組とかね、名前をわざわざ覚えなくても知能派、無頼派、日和見派、自覚なしのバカってな按配で自然と頭に入ってくるんですよね。
この手の登場人物が多いドラマでこれって結構重要だと思うんですよ。
ええと、こいつ誰だっけ、と無用に序盤を回想してみたりしなくて済む。
説明過剰気味になるわけでなく、印象操作に頼るわけでなく、物語の流れの中からすべてを読み取らせる、ってのは高いテクニックがないとできないと私は思います。
また犯人役のルイス・トサルやロドリゴ・デ・ラ・セルナがいい演技してて。
彼らの巧者ぶりに惹きつけられた、というのも大きかったですね。
警察組織と政府機関、強盗集団の三つ巴な駆け引きも見応え充分。
それぞれの利害が一致しそうで一致しない浮氷を渡るやりとりは、安易に次の展開が予測できないものがあった。
とにかくきっちりと物語の背景ができあがってるんですよね。
だから進行に多少のスキップがあろうが渾然としてようが、それが不備には感じられない。
むしろ想像力を刺激する、というか。
青みがかった色合いの映像も殺伐とした質感を印象づける上で効果的だったと思いますし、「天気」が非常に重要なキーワードになっているのもなかなかに巧妙。
ただね、己の手管にちょっと溺れちゃったのか、幾分メリハリがないと感じられる部分はなきにしもあらずで。
派手な流血沙汰とかアクションとかはほぼなくて、あくまで会話劇が中心なんですよね。
そこに退屈さを感じる人は一定数存在するかもしれない。
あとはオチですかね。
できうることなら最後にもう一発どんでん返しが欲しかった。
ちょっと簡単に締めくくりすぎな感触はどうしたって残ります。
上述したように、技巧は申し分ないと思うんです。
構成もしっかりしてる。
結局はそれをどう生かし観客に訴えかけるか、ですよね。
安定の良作だとは思いますが、決して傑作ではない、そんな一作でしたね。
これだけのことができるのなら、もっとすごくなったはずなのになあ、というのが正直なところでしょうか。
スペインらしい犯罪映画だとは思うんですけどね。