オペラ座血の喝采

イタリア 1988
監督 ダリオ・アルジェント
脚本 ダリオ・アルジェント、フランコ・フェリーニ

オペラ座 血の喝采

オープニングはいきなりカラスの目の大写し。

徐々にカメラがズームアウトすると、そこにはオペラの調べにのせ、カラスが劇場内を飛び交う、という異様な光景が。

声はすれども姿の映らない歌い手の目線をカメラは代って追い、デパルマかと見まがうような流麗な動きをみせ、そのまま外へ。

そして突然の暗転。

この一連のシークエンスを見ただけで私はもう、この作品、傑作、と一方的に思い込みました。

あまりに見事な幕開け。

格調と不穏さの同居といい、何が起こってるんだ、と思わず前のめりになる引きのうまさといい、観客の興味を一瞬で掴むマジックがここにはある、と私は思いましたね。

まあ、最後まで見て振り返るなら、そうは問屋がおろさない部分もあったりはしたわけですが。

とりあえず雰囲気作りのうまさは過去作と比較しても頭抜けているように思います。

これまでのアルジェント作品にないぐらいカメラの動きは計算されてるんじゃないでしょうか。

オペラという高尚さにカラスという禍々しさの象徴を放り込むセンスもいい。

お得意のショッカーな惨殺劇も輪をかけて強烈。

ジャケットでネタバレしてる目元に針、もなんていやらしいアイディアなんだ、と思いますが、他にも大の男が「ひゃっ」と悲鳴をあげてしまうようなシーンがいくつかあって、もう本当にこの人はとんでもないというか、壊れてるというか。

間をおかず、矢継ぎ早に最後まで見せきるテンポのよさも緊張感を途切れさせない、と言う意味では良かったですね。

ただ、そのせいで主人公ベティの内面を描ききれなかった部分はあったかもしれません。

なんといいますか、ベティ、タフすぎるんですよね。

あれだけひどい目にあわされながら舞台は休まない、って鉄のハートかよ、って。

ベティ演じるクリスティナ・マルシラックはあんまりこういう役柄には向いてないじゃあ、と思える面もあった。

ただそれも衝撃のエンディングで全て帳消し。

初見時私は、なんて女は怖いんだろう、と震え上がった。

ある意味ね、開き直ることで手玉にとっちゃってるわけです、ベティ。

そこに女と言う性の芯の強さ、斟酌のなさを私は見た気がした。

そして必見は公開当時のバージョンでは見れなかった完全版ゆえのラストシーン。

いやもう恐ろしくシュールです。

なんかもう狂気すら漂ってる、と思った。

実は監督は、連続殺人鬼に翻弄されるか弱き女性という定型のパターンを装いながら、本当に怖いのは一見被害者にみえる女性の内面にこそあるのだ、と訴えているのでは、と邪推したりもしましたね。

見る人によっては問題作かもしれませんが、私はそれを踏まえた上でなおかつ傑作、といいたいですね。

私の場合、アルジェント、といえばこの1作。

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