ベルギー/フランス/ドイツ 1991
監督、脚本 ジャコ・ヴァン・ドルマル

身寄りもなく、1人老人ホームで余生を過ごす主人公トマの現在を、子供時代からの回想をまじえて綴った人間ドラマ。
実は結構重い内容なのに、どこか軽いタッチでまとめ上げてしまったのがこの作品の評価を難しくしているように私は思います。
そう思ってるのは私だけかも知れませんけど。
うーん、そうでないことを祈って書き進めますけど。
えーとですね、ものすごく下賤な言い方をするならシスコンの逆恨みでしかないんですね、この物語におけるトマの行動って。
なぜそこを指摘する人があまり居ないのか、私は不思議なんですが。
で、本来ならそこに黒い負の感情が渦巻いてなきゃおかしいんです。
これもし、同じ題材でラース・フォン・トリアーとかあのあたりのドグマ95系の監督が撮ってたら大変ですよ。
もう見終わって立ち直れないほどボロボロにされちゃうと思う。
でも監督は、そんな屈折したトマの感情を、特に否定的に描写するわけでもなく、きわめて主観的に全肯定しちゃうんですね。
お姉ちゃん大好きでもいいじゃん!隣人のアルフレッドが憎くて当然じゃん!みたいな。
つまりは全編を貫いているのが至極内的なファンタジーの様式なんです。
リアリズムに徹するのでなく、トマのためのトマだけの物語になってるんですね。
なので、突然エンディングで我に返ったかのように博愛精神的なものを発揮されてもですね、そこに外の世界からの介入がないからすべてトマの自己完結に見えてしまう。
早い話がシンパシーを得にくい。
なんだかさらりと終わってしまった、と一部の人が言ってるのって、それだと思うんですね。
いや、やりたかったことはすごくよくわかるんです。
不器用にしか人生を歩めなかった男の最後の良心を暗くなりすぎず悲喜劇的に描きたかったんでしょうが、やっぱり「毒と笑い」が足りない、と私なんかは思ってしまう。
毒と笑いがないと、トトの背徳的な感情を抗弁できないじゃないか、と。
夢想に思わぬ現実味を加味するのはひとさじの苦味と型破りでばかげたデコレーションのはず。
そこがおとなしすぎた、とどうしても感じてしまう。
あ、いいな、と思えるシーンもいくつかあったんで、こりゃダメだ、って話ではないんですが、もっと心揺さぶられなきゃおかしい、と思ったのは確か。
あと、ちょっと不思議だったのはこの監督、役者が泣いてるシーンを必ず泣いた後でカメラにおさめること。
普通はまなじりから涙が溢れる場面から撮りますよね。
でも、それを絶対やらないんです。
どういう意図があるのかよくわからないんですが、それによってお涙頂戴すら記号化していたように思います。
うーん、ほんと評価しにくい。
構成力は高いと思うんで、後の作品を鑑賞後、またあらためて検証してみたいですね。
本作に限っては微妙にかゆいところに手が届いてない、というのが正直な感想。
コメント
[…] それにしてもこのドルマルという監督はトト・ザ・ヒーローしかり、老境の回顧録をプロットとするのが好きな人ですね。 […]