アメリカ 1995
監督 ロマン・ポランスキー
原作 アリエル・ドーフマン

ブロードウェイで話題になった戯曲の映画化。
チリ独裁政権下を題材にした作品で、捕虜に陵辱の限りを尽くした収容所医師が、民主化後、偶然捕虜と再会し、はからずも拘束されてしまう一夜の出来事が描かれてます。
さすがに元が戯曲だけはあってシナリオは緻密に濃厚で、予断を許しません。
声と匂いだけで、私を陵辱したのはこの男だ、と言い張るヒロイン。
確信が持てず右往左往する夫。
そんな事実はない、と無罪を主張する拘束された医師。
はたして真実はどこにあるのか。
医師が嘘をついているのか、それともヒロインが誤解しているのか。
ところどころで挿入されるシューベルトの「死と乙女」をアクセントに、物語は緊張感を失わず、最後まで一気に見せきります。
ラストシーンの演出も峻烈。
ヒロインが望んだものは結局なんだったのか。
安易な信賞必罰に陥らぬエンディングは、多くのことを観客に考えさせます。
あまり話題に上らない作品ですが、私はぐっとひきこまれるものがありましたね。
ただ、これを映画作品である、という視点から見るなら、密室劇であるがゆえの窮屈さは幾分あったかもしれません。
ポランスキーならもっと我々の眼を楽しませてくれたはず、という思いもある。
あとはシガニー・ウィーバーですかね。
いや、ものすごい熱演なんです。
この難しい役を見事に演じきっている、といって過言ではない。
でもやっぱり彼女の場合、エイリアンを筆頭に強い女のイメージが根強くありますから、どうしてもね、違和感がぬぐえなかったりする。
もっと肉感的で、フェロモン満開な女優さんの方が、より悲劇が浮き彫りになったのでは、と思ったりもする。
なんといいますか拳銃が似合いすぎるんですよね、彼女。
おもしろいのは間違いないんです。
でもこれなら舞台で見ても別にかまわないんじゃあ、とつっこまれそうなのが最大の難点ですかね。
時間の経過を意識させる、血が流れ続ける演出には少し感心しましたが。