ニュージーランド 1992
監督 ピーター・ジャクソン
原案 スティーブン・シンクレア

スプラッターホラーの極北であり、ひとつの頂点がこの作品である、というのは少し褒めすぎでしょうか。
お手本となっているのはサム・ライミの死霊のはらわたであることは間違いありません。
悪趣味にコメディタッチな作風と、血肉乱れ飛ぶ旺盛なサービス精神はあきらかにライミの影響下にある、といっていいと思います。
ピーター・ジャクソンが非凡だったのは、 先達を踏襲しつつもそこに物量作戦を持ち込んだことでしょうね。
いやまあ、これ、非凡というより大馬鹿野郎、と言ったほうがいいのかもしれませんけど。
一体誰が、洋館のフロア満杯に詰め込まれたゾンビ相手に芝刈り機をふるって全員を粉砕する、なんてアイディアを思いつくのか、という話であって。
飛び散る人肉ミンチで足の踏み場もない阿鼻叫喚のクライマックスは、初めて見たとき、マジで夕食をもどしかけた。
うーん、1人や2人じゃぱっとしないし、大量にバラバラにしちゃえ、という発想がもうね、タガがはずれてる、というか。
悪ふざけの度合いもほんと加減知らずで。
電球を飲み込んで激しく発光する御婦人を筆頭に、いったい人体をどこまでおもちゃにすれば気が済むのか、とさすがのホラー好きも辟易するレベルで次から次へと狂気の行状がオンパレード。
さらにはラストシーン、怪獣SFかよ、とつっこみたくなるようなクリーチャーまで登場して大暴れ、という念の入れよう。
はっきり言って食傷を通り越して放心に至ります。
なんかもう醜悪なグロの極致を見せつけられて心が麻痺してしまうというか。
でもね、そこで監督がにこにこしながら私に語りかけるんですよ。
ね、ね、やりきってるでしょ?これ以上ないぐらい、って。
うん、やりきってた、でも当分肉は食いたくないけど、って力なく笑う私。
そこで奇妙なシンパシーが芽生えちゃったら、はい、もうだめ。
あなたはいつのまにかブレインデッドのとりこ。
間違っても万人にオススメはできないし、ブレインデッド最高!なんて喧伝した日にゃあ人格を疑われ日陰の人生を送る羽目になりそうですが、このぶっこわれた一大滑稽残虐絵巻は一度体験してみる価値はあるかも。
責任は負いませんけどね。
最後にちょっと真面目なことを書くなら、この作品、チープでばかばかしく血生臭い有様ながら、子離れできない母の盲愛をホラーの体裁を借りてカリカチュアライズしたものである、という解釈も実はできると思うんですね。
ただ問題は、みんなそんなことどうでもいい、と思ってることでしょうけど。
うん、私もどうでもいい。
しかしバカとなんとかは紙一重、ってこういう作品を撮った後にロード・オブ・ザ・リングを大ヒットさせた本作の監督、ピーター・ジャクソンのことを言うのかもしれませんね。