1970年初出 山上たつひこ
小学館クリエィティブ
はたしてこれが本当にあの「がきデカ」の作者の作品なのか?と疑いたくなるぐらいシリアスで、一切の笑いなし。
再び軍国主義への道を歩みだした日本の「ありうるかもしれない」もうひとつの未来を描いた作品。
SFというよりポリティカルフィクションといった方がいいかもしれないんですが、ぶちまけられた毒の強さが本作を安易にカテゴライズさせません。
なんせオープニングからいきなり、謎の奇病に冒された人たちを隔離した出島で異形祭、ときた。
世代を経た奇形児が火を囲んで踊り騒ぐ、狂気漂う描写。
間違いなく現在ではこの段階で連載中止。
これが少年マガジン掲載、ってもう狂っていたとしか思えない。
70年代の少年マガジンは基本的にいっちゃってますが、その中でもアシュラと並んで触れてはいけないところに触れてる、といえるでしょうね。
ただまあ内容そのものは、いたって生真面目に軍靴の響きに対する恐怖を描いたものなので、そういう意味では意外性はありません。
解説にもあれこれ書かれているんですが、執筆の動機として、時代背景もあったことでしょう。
まーとにかく救い、ないです。
予測はしてましたが後味悪いです。
やはり一番評価すべきは寒々しいまでのリアリズムでしょうか。
個人的には藻池村の住人にもっと重要な役で、主役を押しのけて活躍してほしかったですね。
そうすれば更なる傑作になったのでは、と思ったりも。
ギャグマンガ家としての作者しか知らない人は一読の価値ありですね。
山上たつひこのアザーサイド、その頂点と言えるかも知れません。