2024 スペイン
監督 アランチャ・エチェバリア
脚本 アランチャ・エチェバリア、アメリア・モーラ

実話ベースな現実味の強さに心揺さぶられる
スペインのテロ組織ETAを壊滅すべく、肉屋の店員になりすまして6年にも及ぶ潜入捜査に身をやつした女性警官を描くクライムサスペンス。
この手の潜入捜査もの、って古今東西に大量にあって、逐一作品名を挙げるのも面倒くさすぎる状態にあったりするわけですが、そんな有象無象の中にあって本作が頭一つ抜けてる部分があるとするなら「このお話は実話を元に制作されている」という点に尽きるでしょうね。
いやいや本当にこんなことをスペインの警察はやったのか?って。
正直、驚きを禁じ得ませんでしたね。
実話であることが最大のセールスポイント、って映像作品の評価としてどうなんだ?と思わなくもないんですが、創作における自由度、可変性をものともせず、事実が目新しく感じられたんだから、こりゃどうしようもない。
90年代の話なんですけどね、やってることは戦国時代~江戸時代の「草(忍者組織における隠密)」とほぼ同じですからね。
なんせ、家族や友人と自由に連絡することも許されず、殉職しても顧みられず、成功したところで誰にも評価されない、ときてるんですから。
そんな潜入捜査官をささえているのは「テロ組織を壊滅させたい」という正義感のみ。
もうね、宗教家かよ、って話でね。
創作でももうちょっとわかりやすい動機を用意するわ、って。
また主演女優のカロリーナ・ユステが迫真の演技で。
自ら望んで志願した潜入捜査ではあるんだけど、正体がばれる危険にさらされ続ける女の不安定な精神状態を見事に表現してて。
あまりに長きにわたって自分を偽り続けてきたもんだから、ちょっとメンタルがおかしくなっちゃってるんですよね。
一種のジャンキー状態、と言ってもいいと思う。
ここまで辛抱して続けてきたんだから途中で投げ出すわけにいかない、と常に己を戒めている状態。
リスクに対する対価を求めるあまりに、本当のリスクが見えなくなっちゃってる、というか。
終盤、列車に乗り込もうとする主人公とその上司の長回しなやりとりがあるんですが、その場面が個人的には最大の衝撃でしたね。
潜入捜査を長期間にわたって続ける、ってことが人にこんな悪影響を与えるんだ、とびっくり。
壊れかけてるやんか、って。
これを見ちゃうと、古今東西の潜入捜査ものがいかに現実的でなかったかを思い知らされます(ま、それはそれで作品ごとの優先順位の違いもあるだろうから掌返さなくてもいいとは思うんですけど)。
伝説のテロリストと同居しだしてからの緊張感やスリル、捜査官の正体をさりげなく明かすエンディングの演出等も達者だった、と思います。
さすがはゴヤ賞2部門受賞なだけはありますね。
あんまり話題になってませんが、久々の拾い物、と言ったところでしょうか。
この手の警察映画はもういいわ、と思ってる人にお勧めしたい一作ですね。
ねじレート 88/100
