2024 アメリカ
監督 イーサン・コーエン
脚本 イーサン・コーエン、トリシア・クック
お得意の巻き込まれ型コメディだが、兄貴(ジョェル)不在の影響はいかに?
偶然のめぐり合わせで、ギャングが取引きに必要なスーツケースを、車ごと手に入れてしまった女子二人組を描く、巻き込まれ型のコメディ。
あーこれはもうコーエン兄弟お得意のプロットだなあ、って。
バーン・アフター・リーディング(2008)とかね、全く同じ系統ですよね。
と思ってたら、前作バスターのバラード(2018)を最後に、コーエン兄弟は別々の道を行くことを選択したらしくて。
あれ?おかしいな、なんでジョエル・コーエンの名がクレジットされてないんだろ?と不思議だったんだよ、そういうことか。
70歳を目前にして袂を分かつとか、私が母親なら「あんたたちいい歳をしていい加減にしなさい!これまで長い間一緒にやってきたのに、どうして最後まで仲良くできないの!」と叱りつけるところですけど(何様だ、俺)年齢が年齢故に辛抱できなくなったこともあったんでしょうね、きっと。
長い歴史のあるバンドとかでもそうだもんなあ、年食えば食うほどメンバー同士で訴訟合戦に発展したりするもんなあ。
ただ、こういったケースで一番肝心なのは多くの人たちは今更二人が仲違いしようがどうでもいいと思ってるってこと。
全盛期のバリバリに脂が乗ってる時期に喧嘩別れした、ってニュースが報じられたら「マジか!」ってなるけど、もうコーエン兄弟とか大御所でカンヌの審査員やるような立場だしね、彼らに発展的で新しいものを求めてる人たちって、もはやあまり居ないと思うんですよ。
従来のファンが納得できるものが撮れれば十分、というか。
なんで今になってもめるんだよ、遅すぎるわ、決別が、ってファンは思ってるじゃないか、と。
コーエン兄弟の決断と、観客の思い、双方に相当な温度差があるような気がしますね。
ま、つまるところ兄弟だろうが一人だろうが要は面白いものが作れりゃいいわけで。
そういう意味では今作、残念ながら若干の不安が残る内容だったりはしました。
だってね、辛辣に言ってしまえば焼き直しですし。
過去をもう一度なぞるために独り立ちしたわけじゃあるまい?って話ですし。
ひたすら品がない、というか下ネタ全開なのも気になった。
別に主人公ヒロインが同性愛者だろうが異性愛者だろうがどっちでもいいんだけど、これもし男性が同じような振る舞いしてたらドン引きですよ。
下手すりゃセクハラだ!って訴えられかねない。
性的マイノリティだからあけすけでも許される、むしろそこをより自由に、ってことはないと思うんですよね。
マナーを尊重することと、多様性への寛大な理解は全く別物ですから。
あえてどうしてもこれをやりたかったのなら、もっとぶっ壊れたキャラで笑いに貪欲である必要があったと思います。
ありていに言ってしまうなら、毒が足りないんですよね。
そりゃここまでクレイジーだったら仕方ねえわ、ってつい笑ってしまう力強さがない。
アメリカのコメディって、基本下ネタ大好きですけどね、それを出直し1作目で67歳の監督がやらなきゃならんか?と私は少し疑問。
一定の水準は保ってるし、全く面白くない、ってわけじゃないし、オー・ブラザー(2000)やディボース・ショウ(2003)に比べりゃちゃんと楽しいのは確かですが「だからイーサン・コーエンは一人でやりたかったのか!」と納得するようななにかはなかったですね。
兄貴も含め、今後の動向に注目したい、と思います。
ジョエル不在でもこれぐらいは余裕でできるんだよ!という証明にはなってるかもしれませんね、とりあえず。
ねじレート 75/100