T・Pぼん

1978年初出 藤子・F・不二夫
小学館ビッグコミックススペシャル 全5巻

歴史をさかのぼって、不遇な死を遂げた人を助ける任務につくタイムパトロールの活躍を描いた時間SF。

正直申しまして、私の場合、いわゆる時間の概念(タイムパラドックスであったり、パラレルワールドであったり)に関してはすべてこの漫画で学んだ、と言って過言ではないです。

初めて読んだのは確か小学校高学年ぐらいだった、と記憶してるんですが、色々と衝撃でしたね。

まず、過去に手を触れることで現在が改変されてしまう、という理屈が子供にとっては仰天で。

作中のエピソードで、主人公並平凡がタイムパトロールの最中、アケビの実をつまみ食いしてパートナーから叱責される場面があるんですが、その理由が「アケビの実が消えたことがきっかけで現在が改変されてしまうかもしれない」というものであることに、著しく動揺。

ということは、歩いてて知らん間に蟻踏みつぶしてもダメってことじゃないか!と(実際はそこまでじゃない)。

なんて時間旅行とはデリケートなものなんだろうと。

ドラえもんでも時間についてはあれこれ言及されてましたが、かほどに深く立ち入って時間そのものを考察することはなかったですから。

過去とはなんなのか、未来はどう変わっていくのかを考える上でこの作品が私の基礎体力になったことは間違いない。

また、藤子先生、ドラマ作りが本当にうまくて。

歴史に影響を及ぼさない人間のみを救うことができる、という縛りが実に優秀で、タイムパトロールの隊員は常に取捨選択を迫られるんですよね。

いきなり太平洋戦争末期の沖縄に送り込まれ、一人だけしか救うことができないジレンマに苦しんだり、奴隷制度全盛のアメリカで一人の黒人の逃亡の手助けしかできない無力さに悩んだりと、場所と時代で作劇を選ばない果敢さは見事としか言いようがなく。

なんでこの内容で暗く、ペシミスティックにならないのか、今読んでも不思議で仕方ない。

どうにもやるせないんだけど、でも希望を持とうよ、僕たちは、って常に語りかけられてるようでね。

世界史を楽しく学べてしまうアカデミックさも魅力と言っていいでしょう。

数十年ぶりに今回再読したんですけど、やっぱり藤本弘は児童漫画の巨人で天才だな、と痛感。

ただね、本作を大人になるまで知らなかった人が手に取って、初読で私と同じ感銘を受けるのはちょっと難しいような気がしなくもなくて。

改めて大人目線で見ると、色々とつっこみどころがあったりするんですよね。

私が一番ひっかかったのは、未来に本部を置くタイムパトロールの存在。

タイムパトロール、いったい何を財源として過去の死者を救うなどという酔狂なことをやっているのか?と。

いや、これがね、歴史の不備を修正するために人命救助するとか、歴史の流れがゆがまぬように修正する、とかだったらわかるんです。

自分たちの世界を守るため、過去が変な影響を及ぼさぬよう監視するのが業務、ってのなら納得できる。

それならタイムパトロールって、多分国家機関なんだろうな、と変に悩むことなく想像できますし。

ところが本作におけるタイムパトロールは、前述したように、歴史に影響を及ぼさない人のみ選択して助けるのを任務としてるんです。

なんというか、博愛精神もここまで来たらご立派を通り越して宗教レベルだと思うんですね。

膨大なコストが生じるであろうタイムトラベルを、人命の尊さのみをスローガンに、危険を伴う救助活動に利用するわけですから。

なぜその労力を未来社会の弱者救済に向けないのかがほんと謎。

未来社会はすでにユートピアが実現されてるもんだから興味が過去に向いた、ってこと?ひょっとして(そんなエピソードはないけどね)。

歴史上、生きてても死んでも問題ない人をわざわざ探して救うとか、何が目的なのかほんとわからない。

NPO法人だって尻込みする、って話だ。

そんなの、釈迦とかキリストの仕事ですよ、はっきり言って。

しかも隊員がいきあたりばったりに出くわした中学生(主人公)だったりするんですよ。

中学生に人命救助の方法を毎回丸投げとか、マジで考えられんわけで。

タイムパトロール本部は頭おかしい、としか言いようがない。

つまるところ本作、そういった理解しがたい設定を、それはそれ、これはこういうもの、と割り切らなきゃ一から十まで楽しめない構造になってるんですよね。

またすでに指摘したように、設定ありき優秀なドラマが紡がれちゃってるのが始末に負えなくて。

看過するしかねえじゃん、って。

2024年、NETFLIXにてアニメが放映されましたが、どうなんでしょうね、原作のままやってるのかなあ。

ちなみに本作、藤本弘逝去のため未完なんですけど、もし最終回が描かれていたなら私の感じた疑問も氷解していたのかもしれません。

面白いのは間違いないんですけどね、あんまり考えこんじゃうとダメ、そういう作品ですね。

余談ですが長年単行本に未収録だった最後の数作は、あまり出来が良くありません。

ドラえもんの末期と同じで絵が荒れてるし、お話もパッとしない。

すでに病床にあったのか、単に老いてしまわれたということなのか、今となっては謎ですね。

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