2018年初出 鶴淵けんじ
エンターブレインビームコミックス 1~7巻(以降続巻)

飛鳥時代を舞台に、神と人の関わりを役行者とその弟子の旅を通じて描いた古代ファンタジー。
なぜか2018年前後に、日本神話の神々を題材とした漫画作品が同時多発的に各誌で連載開始されたんですが、その一角を占めるのが本作、と言っていいでしょう。
背景には「どの時代をチョイスしたところであれもこれも擦られたおしてて、もはやなにも新鮮味がない」みたいな諦観があるんだろうなあ、と思います。
誰も手を付けてない、となると、もう古代史というか神代の時代にしか金脈は残されてないだろうと。
だからといって実際にやる、となるとものすごく大変だろうなあ、と思うんですけどね。
間違いなくハードルは高い。
だってね、あまりにも残されたデータが少なすぎるから。
神、っつても「誰なん、結局この人?」みたいなのが物の本にはごろごろ出てくるわけですよ。
また、名は違えど実は同一人物、とかね。
いわゆる「古事記」や「日本書紀」を原本とするには、いい加減過ぎる部分、手前の都合で改竄された部分が多すぎて、引用するだけでも一苦労、みたいな。
勉強したところでなかなか合点がいかないのが日本の神々のあらまし&なりたちであって、そこをなんとかしようと思えば想像力、悪く言うならハッタリで補うしかない。
多くの創作者がこの時代に手を付けなかったのは、資質を問われる部分もあったからだと思うんです。
そんなやりにくさを見事手玉に取ってみせたのが鶴淵けんじだと言えるでしょうね。
奔放な想像力と斬新な解釈で古代史に新風を吹き込んだ、ってのはちょっと褒め過ぎか。
これは面白い、と私が思ったのは、神を人の崇敬ありきで成り立つ存在とし、飛鳥時代であってすらその威容は弱体化していた、とする設定。
神は人の呪によってその存在を左右される、とした解釈は「神の取り扱い」を考える上で新鮮だったように思います。
さらに作者がすごかったのは、そんな神の一柱に対する叶わぬ思慕を物語の大きなテーマにしたこと。
いや、神が人を愛でるのならわかる。
逆ですからね。
叶うはずのない思いに身を突き動かされる男の一途さがね、なんだかもう呆れるやら切ないやら。
純愛ドラマもびっくりの巨大な障害が双方の間にあるわけですからね、なんせ女神と人の子だから。
また鶴淵けんじが意地悪でねえ。
中盤で女神をとんでもない場所に追いやったりする。
ネタバレになっちゃうかもしれませんが、地球外に連れてくか?普通?と私はマジでびっくりした。
そう、この物語って古代ファンタジーでありながら、実はSFであったりもするんですね。
いまだかつてジュリエットを二階の窓から天空の果てへとお引越しさせた漫画家とか存在しないでしょうね、きっと。
で、これが荒唐無稽にならない、と言うんだから全くもって恐ろしい。
背景にきちんとロジックがあって、発想の飛躍に物語が取り残されてなくて。
むしろさらなる奥底に、まだ明かされてない何かが隠されているような気すらするんだから大したもの。
最新刊近くでは、神器を使って時間を超えているのではないか、と疑われる仙人の存在や、天津神であるスサノオが降臨したりと、ストーリーの膨らみようも尋常ではなく。
一切の中だるみなし。
古代という枠にとらわれることなく、SF的思弁をも展開のギミックとした壮大なる大作だと思いますね。
若干、アニメ絵っぽい印象を受けた作画も、どんどん進化し独自性を高めていていい感じ。
個人的には10年代最大の収穫ですね。
今一番、続巻が気になる漫画、断言します、これは面白い。

