アフターゴッド

2021年初出 江野朱美
小学館裏サンデーコミックス 1~5巻(以降続巻)

「神」と呼ばれる謎の生命体に各地を占拠され、かつての半分の領土で暮らすことを余儀なくされた日本にて、「神」を駆除すべく戦う対神科学研究所職員の活躍を描いたディストピアSF。

とんでもなく気合の入った作品であることは認めます。

世界の作り込みは半端ないし、背景を支える知見、ロジックも申し分ないし、登場人物たちの内面を細やかに描くことにも長けているし、ここぞという場面で読者を鮮やかに裏切る手管も見事というほかない。

読んでて、これはもう自らの血肉を作品に捧げてるな、と思えてくるほどに濃密。

作者のことは江野スミと名乗っていたころから知ってましたが、一体いつの間にここまで化けたんだ?と驚かされました。

どこかアングラな漫画を描く人、という印象だったんですが、一旦全部リセットしたかのような変わりよう。

ま、病的と言うか、アングラな匂いは相変わらず端々から香っていたりはするんですけどね、前のめりな感じが以前とは全く違うというか。

ともあれ、プロットが優秀、と私は思いました。

「神が土地を占拠し、人を排他する世界」って、えっ、なに?どういうこと?って、読んでて普通に引き込まれると思うんですよ。

図式としてはね、ハカイジュウ(2010~)に似ていたりもするんですが、不可視の超常な存在を「神」としたのが優秀だった。

だってね、神ってなんなんだ?と問われて、すぐ答えを出せる人って神職関係者にもいないと思うんですよ。

生半可なミステリなんざ太刀打ちできないほど想像力を刺激しまくってるのは間違いない。

神としか言いようがないものが人類に仇をなし祟る世界を描いた作品とか、これまで読んだ記憶がないですし。

これって、最終的には神とはなんなのか?を暴くしか完結の道筋はつけられないと思うんですよね。

いやはやすごいテーマにチャレンジしてるな、と。

画力が高いことも好印象。

特に異形や非現実の作画が優秀で。

クトゥルフ神話を可視化したような禍々しい筆致は他に類を見ないほど。

そりゃこれで人気が出なけりゃ嘘だ、と思いましたね。

ただね、個人的には5巻終盤ぐらいからちょっと怪しくなってきたな、と思ってて。

絶対的で相容れないものであるからこそ「神」なはずなのに、それが単に戦闘力の高い怪物みたいな扱いになってきてるんです。

神の内面がまるで人間の子供のようだ、とするのはギリギリ許容出来るとしても、その後の友好がねえ、ちょっと鼻白む感じで。

これ、そのまま推し進めてしまうと、神というよりか侵略SFにも近い物語になっちゃうと思うんですね。

結局、戦闘力、特殊能力の高いものが最後に勝利するのなら、あとは少年ジャンプにでも任せりゃいい、って話になってくる。

いや侵略SFが悪いと言ってるわけじゃないんです、それはそれでいいと思う、ただ私が期待した「神の物語」がそこにないことがひっかかるんであって。

一方的に身勝手な期待を抱きすぎたのかもしれません。

現在、次巻を購入するかどうか思案中。

ちなみに5巻まで読んで、何も気にならない、という人は引き続き物語を追うべきだと思います。

やばいぐらいにテンション落ちてないですし、緊張感も変わらぬままですから。

いつの日か、完結した暁にまた読んでみようかな、と思ったりしてます。

私の違和感はともかくとして、2020年代の大きな収穫であることは間違いない一作ですしね。

タイトルとURLをコピーしました