2023 アメリカ
監督、脚本 クリストファー・ボルグリ

アイディアが独特だからといって、面白くなるとは限らない
あら、こんなところにも、またニコラス。
ってなわけで、ちょっとでも油断をすると「僕、親和性高いですよ」とばかりにどこにでもひょいひょい顔を出すおなじみのハリウッドスター(元?)なわけですが、いかんせん実力が確かなだけに始末が悪い。
いかにも居そうな感じの大学教授を没個性気味に演じるとか、ほんと伊達にキャリア重ねちゃあいないな、と。
いやー、うまい。
とてもプリズナーズ・オブ・ゴーストランド(2021)で片金爆破されてた人と同一人物とは思えぬ。
そりゃこれほど演技力のある人物が低コストで使える、となるとひっぱりダコにもなるわな。
もうそろそろ作品選んでもいいんじゃないか、とは思うけど。
まだ借金あるんですかね?ま、そりゃいいか。
で、肝心の作品内容なんですけど、A24らしく攻めたプロットだなあ、とは思いました。
不特定多数の人間の夢に主人公である大学教授が突然現れて騒ぎになる、などというアイディア、仮に思いついてもなかなか映画にしよう、なんて考えるやつはあんまりいないぞ、と。
なんとなくマルコヴィッチの穴(1999)を思い出したりもするんですが、この手のネタって色々と難しいんじゃ・・・と私は思うんですよね。
奇抜なアイディアで、出足が好調でも、順調に快速なままゴールテープを切った例、ってあんまりないような気がするんです。
奇抜であればあるほど着想を発展させていくのに困難がともなうものであって。
滑り出しのインパクトを超えて見事なエンディングを迎えた例、ってほとんどないんじゃないかと。
だからみんな思いついてもそれを積極的に形にしようとはしてこなかった(と想像する)。
こういうのって、変に難しくなっちゃうか、お話を別な方向にそらすしかほぼ手段がないんですよね(天才の例外はありますが)。
でまあ、本作の場合、見終えて、なんとなく「そらされた」ような感じがして。
おそらくSFにしたかったんだろうな、と思うんです。
だけど残念ながらSFとして解釈するには実現しそうに思えない現実味のなさが目につきすぎた。
軽くネタバレになっちゃうかもしれないですが、どう考えてもね、他人の夢に自由に侵入できるデバイスが開発されて汎用化されるとか、ありえない、と思うんで。
「大学教授の夢ネタ」を発展させた結果が変なファンタジーになっちゃってるんですよね。
これはのれない。
しかもエンディングに至っては、ちょっといい話でまとめようとしたりしてますからね、監督。
いや、そりゃ違うだろ、って。
誰がオッサンのささやかな願望に救いを見いだせるの?って。
この物語を、確たる証拠も確信もなく見知らぬ他人を貶めてしまう「ネットの罪業」になぞらえることは簡単ですが、だとしてもその先を見通せないんじゃあ、ただ大変だったね、で終わってしまう話ですからね。
それって経験談であって、物語ではないわけです。
落とし所を定められなかった、ないしはまとめられなかった一作だと思います。
私にとっては懸念がそのまま形になった作品でしたね。
ま、あんまり突飛なことはやらんほうがいい、という好例か。
そんな例で引き合いに出されたくはないだろうけど、監督も。
ねじレート 62/100