2015年初出 前田千明
双葉社アクションコミックス
<収録短編>
OLD WEST
COYOTE MUST KILL
NO LIMIT
BEAUTIFUL DREAMER
WIND IN WOLVES
西部開拓時代の人間模様を描いた短編集。
これがガンアクションではない、ってのがこの漫画のミソ。
厳密に言うと、当時のアメリカ西部において銃は必要不可欠なものだから、銃撃戦が一切描かれてない、ってことはないんですけど、テーマは開拓時代に生きる人々の内面を掘り下げていくことに絞られていて。
マカロニウエスタンとは違うわけですな。
イーストウッドもジュリアーノ・ジェンマもここには存在しない。
過酷な環境下を、時には悪にも手を染め、生き抜いてきた市井の男たちのドラマが荒々しくも粛々と描かれてる。
しかし日本人の漫画家がこういう作品を好んで描く、ってのが驚きですね。
なんの影響を受けたらこうなるのか?と思う。
60~70年代ならともかく、もはや映画で西部劇にお目にかかることも少ない昨今ですから。
で、なんといっても圧巻なのはその画力。
ちょっと褒め過ぎかもしれませんが、全盛期のながやす巧か井上雅彦か、ってなぐらい絵が上手い。
特に私がしびれたのはCOYOTE MUST KILLの後半のワンシーンで、たった一コマで作品の空気が変わった、とすら思った。
凄まじい説得力。
万語を凌駕し、絵の迫力だけで主人公の心の移り変わりを伝えきる作品なんてそうそうあるものじゃない。
ただ、残念なのは、絵の上手さをシナリオが支えきれてないこと。
着眼点はいいと思うんですよ、でも既視感を感じるテーマだったり、題材が多いんですよ。
西部劇が廃れたとはいえ、なくなったわけじゃないですからね、切り口を変えた変化球は映像作品において時折発表されてるし、それを知る立場からすればこの作品集はオールドなOLD WESTなんですよね、やっぱり。
西部劇好き以外にはアピールしにくい内容であることも、足をひっぱってる気がします。
小学館で入賞したにも関わらず、双葉社から単行本が発売されたのは、きっとそのあたりの目算が編集部で働いてのことなんだろうなあ、と思いますし(双葉社の判断は大英断だった!と思いますけどね)。
このジャンルで身を立てることは相当な困難が伴うように思いますが(なんせ西部劇漫画というと荒野の少年イサムぐらいしか思いつかないんで)、これだけやれる人がこのまま消えてしまうのはあまりに惜しいので、何らかの形で漫画家は続けてほしい、と思いますね。
原作者を迎えるもありかと思うんですが、うーん、どうなんだろ、こだわり強そうだしなあ。
ともあれ、またいつか新作でお目にかかるのを楽しみにしてる漫画家の一人ではありますね。