1978年初出 手塚治虫
ちゃんと調べてはいないんですが、先生が最後に描いた少年SFでは、と思います。
残念ながら未完。
しかしながらこれがですね、やたらとおもしろいんです。
なぜこれが打ち切られてしまったのか不思議に思えてくるぐらい、アイディアと創造性の宝庫で、これこそがSFファンタジーだよなあ、と私は膝を打ったりもしました。
返す返すも終わらなかったことが悔やまれます。
80年代前夜、という時代が逆風になったか、という気がしなくもありません。
若干ですね、あれこれ詰め込みすぎて迷走している感はあるんですが、クローンが流刑星に移送、に始まって異星人とのファーストコンタクトに至り、寄生する知的生命体な嫁に異星での王位争奪劇に人知を超えた善と悪の存在など、これでもかとばかりに大盤振る舞いな内容は全く先が読めず、実にスリリング。
どこへ話を持って行くべきか悩みながら描いてるのでは、と思ったりもするんですが、その分瞬発力の高さ、あらざる宇宙を構築するイマジネーションの豊かさ、振り幅の大きい急転直下なストーリーテリングは他の作品と比べても群を抜いていて、やたらと楽しかった、というのはありました。
この頃そろそろ台頭しつつあったニューウェイブと呼ばれた作品群や、いわゆるオタク文化の萌芽にもう先生はついていけなかったんだろうなあ、という印象を抱く人もいるかも知れませんが、多くの80年代ポップカルチャーが立ち腐れていったことを振り返るなら、そこはついていく必要もないだろう、と私は思うわけです。
同時代性という意味で受け入れられなかっただけで。
そりゃもう仕方がない。
手塚冒険SFの秀作として、本作は未完ながらもっと評価されるべきだ、私は思ってたりします。
こういうSF漫画って、希少だと思うんですね。
想像力をかきたてる別世界への扉がこの作品にはあります。
いや、好きですね、こういう漫画。