ルサンチマン

2004年初出 花沢健吾
小学館ビッグコミックススピリッツ 全4巻

久しぶりに読み返してみたらアイアムアヒーローアンダーニンジャとは全然作風が違ってて驚いた、というのはありますね。

ずっと変わってない、と勝手に思いこんでいたんですが、作者なりにバージョンアップを繰り返してたんだなあ、と。

でなきゃ第一線でずっと活躍はできないか。

ボーイズ・オン・ザ・ランのころからそうでしたけど、この人は新井英樹の影響(というか宮本から君への影響)が強い漫画家で、本人もそれを公言していたと思うんですが、本作も新井の残滓は随所で嗅ぎ取れて。

それを完全に払拭したのがアイアムアヒーローだったのか、と今頃ようやく理解したんですけど、それはまた別の話。

本作、新井英樹的な作劇を、意外と古いノリのギャグを混じえて四等身のキャラが演じるという、あんまり他では見かけないことをやってて、この路線はこの路線で悪くない、と思ったり。

進化したMMOの世界を舞台にした、もてない30歳の物語というのも親和性高くていい。

私は主人公ほど絶望的に女性と縁のない人生は送ってないけど、なんかね、男の生理に根ざした悲しくも滑稽な満たされぬ思いには共感する部分が多かったですね。

そりゃここまで徹底的に異性から拒絶されたらバーチャルに走りたくもなるわ、と。

体感型のVRがAIによる神を電脳世界に住まわせるというネタも、昔からあるプロットではありますが、メタバースが声高にアピールする昨今、思ったより古臭さは感じなくて。

ましてや副次的に人格を持った少女を仮想空間に産んだ、となると俄然前のめりになる男性読者も多かったことだろうと思います。

ま、ある種の男の夢でしょうしね。

辻褄が合ってるのかあってないのかよくわからない部分も若干あるんですけど、主人公が紆余曲折の末どうにか本懐をとげる展開には、思わず感情移入して「うんうん、よかったね」とうなずいてしまうものがありましたし。

エンディングにおける元の木阿弥な感じはいかにも新井テイストだなあ、と思わなくもないんですが、それなりにちゃんとSFしてて決して不出来ではない(ちょっと都合良すぎるかも、と思いますけどね)ですしね。

あれ、ひょっとして花沢健吾の最高傑作か?などと思ったり。

まだ試行錯誤しているであろう不完全さも含めて、私はこの作品、なんか好きですね。

おそらく開花前夜的な位置づけなんでしょうけど、若さゆえの無軌道ぶり、挑戦が不思議に熱を帯びることもあるわけで。

ひょっとしたら現代だと規制にひっかかる内容なのかもしれませんが、最近の新しいファンが読んで色んな発見がある一作じゃないでしょうかね。

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