1991年初出 木城ゆきと
集英社ビジネスジャンプコミックス 全9巻
はるか未来の地球、屑鉄の山から偶然発見された少女型サイボーグ、ガリィの失われた過去と階級社会化した世界の秘密に迫るSFアクション。
連載開始当初はそれほど注目してなかった、というのが正直なところですかね。
少女型サイボーグを主人公にして未来譚をつづる、というプロット自体が91年にして手垢なように私は感じてましたし。
石ノ森章太郎を筆頭に、サイボーグでSFって、当時は爛熟の極みにあったように思うんです。
80年代で出尽くしたどころか、時代はもはや「大友以降」に突入してて、新星、士郎正宗が電脳世界をモチーフに攻殻機動隊(1991)を発表し、漫画界に新たなうねりを起こしてた頃ですしね。
なんで今さら少女サイボーグなんだ?と。
序盤の筋立てもあんまり興味をもてるようなものではなかった。
どうやらガリィは失われた伝説の格闘術、パンツァークンストの使い手で、世界を破壊した戦争で活躍した火星の戦士だったようだ、と判明するんですが、ああ、いかにもジャンプっぽいなあ、と。
意味なく残虐でグロいのもあんまり好きになれなかった。
猟奇っぽいいびつさがあるんですよね。
いや、ビジネスジャンプというサラリーマンを対象にした漫画雑誌でね、SFに興味を持ってもらうためにはどうすればよいのか、熟考及びリサーチを繰り返した結果の残虐さであり、少女兵器という設定なんでしょうけど、作品そのものを好きになれてこそ、もろもろの生理的嫌悪も許容できるんであって。
最初からのれない以上、諸事情を鑑みる親切さを発揮する必要もないわけで。
中盤ぐらいまで続くモーターボール編なんてコブラかよ、と思ってましたしね。
それでもなんとなく読んでたのは、私がSF好きだからでしょうか。
小出しに至極SF的なガジェットを散りばめてくるんですよね。
おそらく、軌道エレベーターを漫画に登場させたのは、銃夢が最初だったと思うんです。
なにかやらかしそうな気配だけは濃厚だった、というか。
そんな醒め気味な私を一気に作品世界へと振り向かせたのが、ビジネスジャンプコミックス版の9巻92ページ。
何事か、と思った。
マッドサイエンティストの狂気の裏側を、こんなシーンで演出するなんてただ事じゃない、と震えましたね。
そこからの展開は怒涛。
リミッターが外れたかのようにこれでもかとSFに傾斜していく。
疑似科学的なケレン味もたっぷりに、空中都市ザレムに暮らす人達の正体を暴いていく展開は、これぞまさにSFと呼べるものでしたし、ガリィの行く末をああいう形で結びとする顛末は異形に救済をもたらしめる完璧なエンディングだったと思います。
ナノテクノロジーが広く知られてない頃に、それを道具立てとした慧眼も素晴らしい。
終盤の追い上げがね、もう半端じゃないんです。
なんで最初からこれをやってくれなかった!と言いたくなるほどに、まあ、化けること化けること。
前半で放り投げてしまった人はぜひ最後まで読んでほしい、と思いますね。
有終の鮮やかさが、批判をも封じ込めて伝説化したシリーズだと思います。
サイボーグネタでよくぞここまでやった、その一言ですかね。
誤解を恐れずに言うなら、石ノ森章太郎や松本零士が蒔いた種を実らせたのが銃夢、そんな風にも思ったりしますね。