アメリカ 1941
監督 アルフレッド・ヒッチコック
原作 フランシス・アイルズ
自分は殺されるのではないか・・と疑心暗鬼に陥る女の恐怖を描いたサスペンス。
ちなみに物語がサスペンス色を帯びてくるのは残り30分ぐらいからです。
えっ、じゃあそれまでは何をやってるの?というと、主人公夫婦の暮らしぶりを出会いから結婚、新婚生活まで、じっくりと追っていたりする。
なのでなんの予備知識もなくこの映画を見た人は、家族ドラマ?と思うかもしれませんね。
しかも、どう見てもダメ男に騙されてるのに、別れられないタイプの女の。
私なんざ途中まで、ヒモか結婚詐欺師をテーマになんか事件が起こるのか?と思ってた。
ヒッチコック先生にしちゃあ、ゴシップ誌みたいな内容だなあ、といぶかしんだり。
違った。
女の内面に切り込んだ心理ドラマ風スリラーでした。
まあでも、ぶっちゃけ、立ち上がりがあまりに遅すぎる、というのはありますね。
いやね、1時間近くなにも起こらないまま、ひたすら夫婦の暮らし向きを描写した理由はわかるんです。
妻の心に芽生えた小さな不信、愛情のほころびを印象づけたかったんでしょう。
それがあってこそ、終盤における妻の疑念に観客も同調できるというもの。
けどやっぱりね、近年のスピーディーでテンポの良いミステリに慣れた感覚からするならこれはまどろっこしい。
早い段階で観客をミスリードする不可解な場面があればまた違ったかと思うんですが、まるで気配すらないですからね。
口のうまい無職のろくでなしに、ウブなお嬢様が手玉にとられてあれよあれよと気がつきゃぞっこんLOVE?ですから。
ああ、もうバカバカ!しっかりしなさいっ!あんたいい年なのに、なんでこんな男に引っかかっちゃってんのよ!と、気分はもう近所の世話焼きなオバサン。
そういう映画じゃないだろ、って。
最後に待ち受けるオチも、じっくり時間をかけて女の内面を掘り下げていった割にはあっけない。
えっ、それで終わり?みたいな。
いやいや、それからどうなったんだよ!と、つっこみそうになるというか。
小品ですね。
丹念に積み重ねられたシナリオ構成といい、不穏さを増大させていく演出といい、さすがだな、とは思いますが、さらに二転三転するぐらいの裏切りはあってもよかったか、と思います。
さすがに古さを感じてしまう、そんな一作かもしれません。