イギリス/ドイツ 2018
監督、原案 ダンカン・ジョーンズ
未来のベルリンを舞台に、突然行方がわからなくなった恋人を探す男を描くSFサスペンス。
体裁はサイバーパンク風で、未来世界の作り込みもそれなりのこだわりが見受けられ、SF好きとしては楽しめなくはないんですが、最大の難点は文脈がサスペンスなのにサスペンスの体をなしてないことでしょうね。
やっぱりね、姿を消した恋人は、なぜ姿を消さねばならなかったのか?また、誘拐だとするなら犯人は誰だったのか?に重きをおかないと盛り上がらないわけですよ、この手のお話って。
そのためには伏線や謎かけはもちろんのこと、暴かれる真相を衝撃でもって演出するためにミスリードのひとつやふたつはぶちかまさなきゃならない。
びっくりするぐらい一本道ですから。
しかも、ああ、そういうことだったの、だから?みたいなオチしかクライマックスでは待ち受けてないときた。
ヒロインをミステリアスに見せる工夫とか、予想外の人物を事件に関わらせるとか、できることは大量にあったと思うんですけどね、なぜか監督はミステリに見向きもせず、登場人物をひたすら深堀りしていくばかりで。
考えられるのは「そもそもサスペンスにするつもりはなかったんだけど、仕上げてみたらサスペンスとしか言えない風体だった」でしょうか。
ダンカン・ジョーンズはこの映画に関するインタヴューで、困難な状況下であってさえ親であることを描こうとした、と語ってますが、私は見終わって1ミリもそんなこと考えませんでしたね。
結局、主題と内容が乖離してる、ということなのかもしれません。
親が原理主義的な宗教の信者だったために手術を受けられれず、声を失くしてしまった男が主人公だったり、粗暴で短気だが娘を溺愛する男がサブキャラだったりと、なにかの隠喩なのかな?と思わせる点はいくつかあるんですが、なにもかもが最後まで線にならなかったというのが正直なところ。
どっちかというとドメスティックに毒親拝見ですしね。
えっ?ひょっとして皮肉なのか?これは?
父デヴィッド・ボウイと乳母にこの映画を捧げる、とのテロップが最後に流れますが、皮肉だとするなら痛烈すぎて目もあてられないけど、まさかなあ。
うーん、失敗作ではないかと。
未来の話でなければならない根拠も希薄ですしね。
SFに関しては信用できる監督だ、と思ってただけに肩透かし。
部分部分でピックアップするなら評価すべきところもあると思うんで、それが次作に活きることを願わんばかりです。
とりあえずこれはなかったことにしてもいいんじゃないかと。
16年もアイディアを温めてたって話なんで、ちょっと考え込みすぎちゃったところもあったのかもしれません。