アメリカ 1971
監督 サム・ペキンパー
原作 ゴードン・M・ウィリアムス
イギリスの片田舎に越してきた学者夫婦を見舞う、予期せぬ惨劇を描いたバイオレンス。
なんといってもこの作品、見どころはラスト数十分に尽きる、と言っていいでしょう。
描写されているのは小心者で争いを嫌う夫が、身の危機を感じ、別人格が乗り移ったかのように豹変するシークエンス。
今更あえて書き連ねるまでもなく主演のダスティン・ホフマン、恐ろしくうまいです。
身も蓋もない言い方をするなら、これって「普段、温厚なやつほどキレると手に負えない」だと思うんですが、まさにそれを体現する演技でしたね。
完全に目が飛んじゃってるのに、妙に冷静なんですよ。
無理に自宅へ侵入しようとする暴漢どもに罠を仕掛けたり。
その反面、そんなので殴ったら死ぬ、ってな鈍器を躊躇なく侵入者に振りおろしたりもする。
薄ら寒くなるような狂気がエンデイングで一気に爆発。
こういうことを淡々と緻密な演出でやってのけるからペキンパーは侮れない。
落差というかギャップを設計するのも上手ですが、もうね、見てて怖いんですよね、ド素人の不器用な暴力が。
これはCGでは絶対に表現できない「いびつさ」だな、と感服。
ラストシーンでの夫の独白も強く印象に残りましたね。
理不尽に抗しただけなのに、結果として拒絶し続けた衝動に身を任せてしまった自分が居る。
暴力ってのはなんなのか、その解を知る人ならではの結びだな、と私は思った。
ただですね、この作品、最大に盛り上がる終盤までの流れは割と冗長でして。
この前半があればこそ、とおっしゃる方もいらっしゃるんでしょうが、私は対立の図式、感情面でのもつれをあまりはっきりと顕在化させてないな、と思った。
主人公夫婦がどういう人間なのかはよくわかるんですけど、二人を襲う暴漢どもの内面がね、ちょっとぼんやりしてるかな、と。
そこまでやるか?と思っちゃうんですよね。
酔っぱらいのオヤジにのせられた、という解釈もできるんでしょうけど、あまりに悪虐すぎて台本上の悪役を全うしただけのようにも見えてしまう。
エンディングに集約していかないんです、それまでの出来事が。
どこかぶつ切りに見えてしまう、というか。
妻を襲った災禍も夫が知らないままだとあんまり意味ないですしね。
こいつらクズなんですよ、と言いたかっただけになってしまう。
最後に待ち受けるアグレッションはとんでもないんですが、そこに至るまでの構成は再考の余地あり、といったところでしょうか。
あとはビッチ風にキャラ立てされてる妻がちょっとよくわからなかったり。
お前にも責任の一端はある、と見る側に認識させたかったんでしょうかね?
今ならこれ、女性蔑視だ、と言われそうな気がしなくもないです。
どうあれ、爪痕を残す映画ではありましたね。