さらい屋五葉

2006年初出 オノナツメ
小学館ikkiコミックス 全8巻

腕は立つが、気弱で小心者なため故郷を追われた侍が「拐かし」を生業とする犯罪集団へ、なし崩し的に手を貸す成り行きを描いた時代劇。

血なまぐさいクライムアクション?風なのかな?と思いきや、内実は濃厚な人間ドラマといって良いと思います。

時代劇の体裁を保ちながらも派手なチャンバラシーンや流血沙汰はほぼなし。

侍に生まれつきながらも侍になりきれぬ主人公秋津と、飄々と悪事に手を染めながらも心の奥底に闇を持つ男弥一、その二人の出会いが、お互いをどう変えていくのか?が大筋での読みどころ。

時代劇として成立していないってわけではないんですが、キャラクター及びシナリオ進行を追う限りでは現代劇に置換することも可能だな、と私は思いましたね。

特に秋津、なんだか今どきの男子っぽい、というか。

どっちかといえばやはりこれは少女漫画の文脈なんだと思います。

ただそれが、時代劇をつづる上で違和感を感じるほどではない、ってのが作者のうまさ。

秋津や弥一が本当に求めているものはなんだったのか、後戻りできぬ世界に二人を置くことで内面を赤裸々に暴いていく展開は、近年の漫画家の中でもトップクラスのストーリーテラーぶりだったと思います。

真正直さ、愚直さが屈折や頑迷を溶かしていくってのはありがちなパターンではありますが、それを説得力でもって語れる作家ってなかなか居ないと思うんですよね。

いささか出来すぎな感もないわけではないですが、ここまで登場人物たちを追い込んでおきながら、よくぞ最後には救済してみせたものだ、と思います。

これ、小池一夫や平田弘史なら絶対何人か死んでますよ。

描き込みの浅い絵柄に好き嫌いは分かれるかも知れませんが、0年代の収穫と言っていい一作じゃないでしょうか。

個人的にはもう少しストッパー不在な暴力と隣り合わせな怖さも加味してほしいところですが(時代劇ですし)これはこれで完成してる作品だと思いますね。

漫画家としての力量は申し分なし。

これでエンターティメント性を身につけたらとんでもないことになる気がします。

そうなっちゃうと、こんなのオノナツメじゃない!っていう人がきっと出てくるんでしょうけど。

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