2002年初版 伊藤潤二
小学館ビッグスピリッツコミックス 全2巻
もうタイトルからして紙一重です。
笑わせたいのか、って話だったりするんですが、内容自体はタイトルにそぐわずカタストロフを描いた怪奇SFだったりするので、そのギャップになにやら戸惑わされたりも。
しかしまあ飛ばしてます。
なんせ海洋生物が腐敗ガスによって動く謎の歩行器で地上に上陸してくる物語ですから。
もうここまで来ると奇想だとか規格外だとかそういうのを超えて、ひょっとしてバカ漫画なんじゃあ・・という気さえしてきますね。
一応ね、お笑いにならないように、子供だましにならないように、それなりのもっともらしさを事件の背景に忍ばせてはいるんですが、それでもやっぱりきわどい、ってのはどうしたってありますね。
なんだこれバカバカしい、と一瞬でも思っちゃったらもうアウトでしょう。
ただ昔からのファンとして擁護するなら、ストーリー後半で人間が歩行器に乗せられて蠢き出す展開は作者ならではの忌まわしさ、昏い味を堪能できる作劇だったように思います。
そこから導かれたラストシーンも、瓦礫の向こう側に黄昏れていく世界の退廃的美しさが垣間見えるリリシズムに満ちたものでした。
出発点がとんでもなかったのは確かなんですが、終着点は決して悪くはない。
そこまで投げ出さずにたどり着けるか、でしょうね。
いつもギリギリのバランスで「珍妙」を「見たことのない恐怖」に転換してきた伊藤潤二ですが、今回初めて均衡が崩れたか、といった印象ですね。
やはり長編向いてない、と思ったりも。
これが24ページぐらいの短編だったらまた全然違ったかもしれません。
ちなみに併録されている短編「大黒柱悲話」「阿彌殻断層の怪」はページのカサ増しとは思えぬ優れた短編で、こっちのほうが面白かった、と言う人の方が案外多いかも。
まあ、つまらない、ってわけではないんで、スルーするのはちょっともったいないかも、といったところですかね。