1990~92年初出 伊藤潤二
朝日ソノラマ眠れぬ夜の奇妙な話コミックス

<収録短編>
サイレンの村
煙草会
黴
記憶
道のない街
名編目白押しの一冊。
閉ざされた日本の田舎町に西洋的な魔神を放り込む、という荒業をやってのけた表題作「サイレンの村」でまずは心臓をわしづかみ。
悪魔を題材にした一連の海外ホラーにも肉薄するおぞましい出来で、こういうものも描けたのか、とうれしい驚きでしたね。
黙示録的な黒々しさがあるのがまたいい。
のちにプレイステーションで発売されたサイレンと言うゲームは、間違いなくこの短編から設定を拝借してると思います。
単に珍しい煙草を吸うだけのこと、単に黴が増殖していくだけのことをイマジネーションあふるる独特の描画で表現した「煙草会」「黴」も優れた作品。
これ、作画が伊藤潤二じゃなければ「だから何?」で終わってた、と思います。
作者にしか表現できない漫画ならではの忌まわしさが素晴らしい。
「記憶」はミステリタッチながらも女性心理の奥底に潜む美への渇望を鮮やかに浮き彫りにしていて、なんとも背筋が寒い佳作。
楳図さんが好んで題材としそうな話ではありますね。
で、白眉といえる一作が「道のない街」。
どこにも存在しない街をさまよう主人公を、シュールさと禍々しさで見事彩った大傑作。
これ、もし虚構漫画と呼ばれるものがあるとすれば、その頂点に近い位置にある作品ではないか、とすら思います。
語弊があるかもしれませんが平成の「ねじ式」といっていいかもしれない。
もうホラーの枠組みすら超えてはるか別の場所に慄然と佇んでます。
初読時は天才か、とすら思いましたね。
必読の一冊でしょう。
知らないのは損失である、としか言いようがない。