ドイツ 1926
監督 フリッツ・ラング
脚本 フリッツ・ラング、テア・フォン・ハルボウ

言わずと知れたSF映画の原点であり金字塔。
私が見たのはアメリカ向けに再編集された1時間20分程度のものなんですが、いやはやそれでもこの出来栄えには驚かされましたね。
とても大正15年に制作された映画だとは思えない。
まずなんといっても凄いのはそのビジュアルでしょうでね。
2026年の近未来を描いた作品なんですが、美術が全然古びてないんですよ。
今見てもちゃんと時代の先をとらえたデザインだと思えるあたり、その感覚の先鋭性は凄まじいものがあると思います。
ビルとビルの間に高速道路が張り巡らされてる構図なんて、近年のSF映画ですらそのイメージを流用してますよね。
特にアンドロイドのマリアの造形、これにはあたしゃド肝をぬかれた。
C-3POか、はたまたコブラ(寺沢武一)に登場するレディか、ってな按配で、そのメタリックな質感はもう完全にサイバーパンク。
支配者階級に対する労働者階級の反乱をテーマとしたシナリオも、いまだに似たような映画が作られ続けてることから考えても革命的だったのは間違いない。
そりゃね、モノクロでトーキーな上、デジタルの概念が欠落してるんで所詮は古典、と言う人もきっと居ることだろうとは思います。
なぜか未来なのに複葉機が飛んでたりしますしね。
でもいったい誰が戦前にこれだけのものを作れたのか、という話であって。
最も評価されるべきは、今現在を持ってしてもこの作品が描くディストピアな未来のイマジネーション、物語様式を陳腐である、とそしることができないオリジナリティの高さでしょう。
もうみんなマネしてる。
それこそ連綿と21世紀に至るまで。
どこかミュージカルを想起させる出演陣の動き、主演のブリギッテ・ヘルムの取り憑かれたような鬼気迫る演技も見どころのひとつ。
フリッツ・ラングは天才だ、と確信した次第。
近年150分の完全版が発売されましたが、機会があったら是非見てみたい、と思いましたね。
評判に偽りなしの大傑作。