カナダ/フランス 2012
監督、脚本 グサヴィエ・ドラン
中盤ぐらいまで見て、あ、さらにエンジンの回転数上げてきた、と率直に思いましたね。
ドランの才能を疑うわけではないですが、前2作は本人が出演していることもあり、どこかプライベートフィルム的な質感もあったように思うんです。
自分ができる範疇、経験則で想像できる範疇で舵を取った、とでもいうか。
それでも普通の20代にできることではないのは確かなんですが、本人が完全に裏方に回ったときにですね、これまでのように魅力ある作品作りができるのか、と言う部分で私はこの映画、ちょっと警戒してたところもあったんです。
いやもうね、完全な杞憂どころかドランは予想のさらに上を行きましたね。
役者陣の見事な演技もさることながら、そのテンション、臨場感に舌を巻きました。
とにかく台詞回しがうまい。
いやもう20代に書けるシナリオじゃありません、これ。
登場人物の心の機微が痛いほど伝わってくる。
性同一性障害だが、パートナーは女性を求める、という主人公のキャラクター設定も巧みだと思いました。
広く世間に認知されている女装って=オカマだと思うんですね。
ところが実際は一概に女装といえどその内実は恐ろしく多様に煩雑で、男性を求める人もいればバイもいて、ノーマルな人もいれば同じ女装が好きな人もいる。
LGBTってのはこうだから、と紋切り調にカテゴライズしてしまうのではなく、見た目の性で生きていけない人たち一人一人がそれぞれの生きにくさ、それぞれの苦悩を抱えているんだ、とした描写は見事だったと思います。
もうフレッドの気持ちを思うとね、私は胸が苦しくなりましたね。
お互いに求めてはいるんだけれど、どうしても超えられない世間であり、常識。
救いはありません。
救いはありませんが、救いがない、と描くことこそがドランの目的だったのかも、と思ったりもします。
普通に男のまま、女のまま異性を愛せる人に見て欲しい、と思いましたね。
常識の垣根がほころびる、としたらこういう作品からであってほしい、と私は思いました。
ただですね、1点だけつっこむとしたらですね、ロランス、もうちょっと女を磨け、と。
まだ女として外見上、できることがあるだろう、と思った私はデティールにこだわりすぎでしょうか。