アメリカ 2015
監督、原案 ライアン・クーグラー

まあ「ロッキー」シリーズのスピンオフですし、どうせスタローンが老骨にムチ打ってありえない大活躍の末、予定調和でハッピーエンドなんでしょ、とタカをくくっていたら、これがあなた、予想外にいい出来でびっくり。
とりあえずこのライアン・クーグラーって監督はかなりできる男だと思います。
ロッキーシリーズは初期の数作と、ロッキー・ザ・ファイナルしか見ていない私ですが、断言します、スピンオフながら下手すりゃ過去のどの作品よりも優秀であると。
私が一番感心したのは、ジャンル映画に見せかけておきながら、いかにも派手なアクション主体のボクシング映画に監督がこだわってないこと。
じゃあ何にこだわっているのか、というとボクシングにとらわれてしまった男達の背後にくすぶるドラマをどう見せるか、という点なんですね。
そこは試合のシーン以上に細心の気配りがあったように思います。
監督はロッキーという完全に出来上がった物語世界に飛び込みつつも、その懐のうちでいかにリアリズムを構築するか、本当に熟考してる。
一番の英断はスタローンを決して特別扱いしなかったこと。
すべての登場人物が並列なんですね。
主人公のジョンソンですら、ともすれば駒のひとつであるかのような処遇。
そこからなにが垣間見れたのか、というとドキュメンタリーにも近い臨場感だったと私は思います。
エンターティメントなスター映画ですよ、ってな空気を極力排除してるんですね。
だから思わぬ場面でふいに心揺さぶられる瞬間がなんの前置きもなく涙腺を爆撃したりする。
スタローンも老境を迎えた元ボクサーという難しい役柄をいつになく熱演してたように思います。
まだ全然枯れてないオーラがにじみ出ちゃってるのが玉に瑕だったりはしますが。
ストーリーは単純で、スポ根感動路線なのは間違いないんですが、試合のシーンは別にダイジェストでも良かったのでは、とすら思えてしまうのがこの作品の凄さでしょうね。
もちろん、そのボクシングのシーンに関してすらこれまでになく本気で取り組んでいる、という徹底ぶりがあってこその凄さなわけですが。
監督はロッキーという大看板に新たな息吹を吹き込んだ、といって間違いないと思います。
しかしまあ、それにしてもスタローンという男は本当に幸せ者ですね。
もうどんなにがんばっても搾りかすすら見当たらないだろう、と思われたところにこれだけのものを撮れる人物にめぐり合えたんですから。
特にラストシーン、観客のノスタルジーを刺激することもさることながら、彼本人も役者冥利に尽きたのでは、と私は思ったりしました。
思わぬ秀作。