1993年初出 山上龍彦
講談社文庫

山上たつひこの初長編小説。
おそらく雛形となっているのはかつて漫画の形で発表されたイボグリくんでしょうね。
主人公のキャラといい、シュール極まりないぶっとんだ展開といい、まさにあのまま。
多分作者は自分のギャグ漫画を活字の形で再構築したかったんでしょう。
とんでもない挑戦だと思います。
そもそも漫画と小説ではリズムも違えば、間のとり方も違うと思うんですよね。
漫画の面白さをそのまま文章に転換するのは過去の諸作をひも解くまでもなく至難の業。
短編ならまだなんとかなる、と思うんです。
でも長編小説となると、ギャグ漫画の行間すらも文章として書き起こすぐらいの緻密なストーリー構成が必要となってくるわけですから。
勢い任せで終わり、ってなわけにはいかない。
で、そこはクリアできたのか、というと正直微妙でしょうね。
どう見てもギャグ漫画でしかないプロットを大衆小説風に煮付けなおした手腕は見事だと思うんですが、絵なら説得力があっただろうと思われるシーンも活字では荒唐無稽すぎてついていけない、という展開がいくつかあったように思います。
ファンですんで容易に山上たつひこの絵とコマ割りで脳内再生は可能なんですが、それが出来ない人にとってはやはり「ばかばかしすぎる」と一刀両断されてしまう危険性は過分に孕んでいる、といえるでしょうね。
非常に惜しいところまではきてる、と思うんです。
でもサービス精神が旺盛すぎた、というか、漫画感覚で調子にのりすぎた、というか。
古くからの読者にとっては最高に楽しい1冊であることは間違いないんですが、新規参入組に訴えかけるにはいささか敷居が見たこともない形すぎたかもしれません。
漫画と小説の中間、といった印象を受けましたね。