アメリカ 2014
監督、脚本 アンドリュー・ニコル

9.11以降、実際に米軍で実践されたドローンによる対テロ戦争を描いた作品。
まず、すでに2010年にはこんなことが米軍によって行われていたのか、という驚きはありましたね。
もうね、どう見てもシューティングゲームなんです。
しかも絶対に敵に攻撃される心配のない。
数人の空軍兵士が密室でモニターを眺め、テロの首謀者と思われる人物にカーソルをあわせ爆撃していくシーンは、そのリアリティのなさが逆に恐ろしい緊張感を産むという、見たことのない絵であったことは間違いありません。
指先ひとつで人の命が次々と奪われていく日常。
しかも精度は完璧とはいえない。
突然自転車で横切る子供がいたりもするわけです。
しかし一度発射した爆弾は引き返すはずもない。
毎日密室でアフガニスタンを空爆しながら、仕事を終え、家に帰ると一家の父親としての役割が待っている、というテクノロジーがもたらしたが故の悲喜劇の描写も、ひどく気持ちを揺さぶられるものがありました。
妻はなにも語らない夫に不信感を募らせていくんですが、もちろん主人公に職務を語れるはずもないわけで。
どんどん心を蝕まれていく主人公。
むしろこれ、おかしくならない方がおかしい。
戦争と言う「集団狂気」に飲み込まれず、冷静に兵士としての任務を全うすることを強いられた軍人の苦悩をこの作品は見事に浮き彫りにしていたように思います。
時代が求めている兵士とは戦地で大活躍をする英雄ではなく、 想像力を欠如させたクールなゲームプレイヤーなのだ、と物語は語りかけます。
いったい戦争と言う愚行はどこへ向かおうとしているのか。
この薄ら寒さは人の営みを越権した向こう側にあるものだ、と私はふと思ったりもしました。
この先、戦争に巻き込まれないとは限らない状況下にある日本において、一度は見ておくべき作品だと思います。
ストーリーはなんら解決を見せずに終わっているんですが、それこそが監督の意図だったのかも、と思える力作。
怖い映画です。