イタリア/西ドイツ 1969
監督、脚本 ダリオ・アルジェント

サスペリアの大ヒットで知られるイタリアンホラーの巨匠、ダリオ・アルジェントの監督デビュー作。
監督は「ジャーロ」と呼ばれる猟奇サスペンスブームの立役者でもあるわけですが、本作を見て、なるほどこりゃ人気を博すはずだ、とつくづく感心させられた次第。
いやもう普通に面白いんですよ。
とても69年に撮られた作品だとは思えない。
古さを感じさせないんですね。
もちろんつっこみどころがないわけではありません。
警察があまりに無能すぎて漫画みたいだとか、主人公が果敢に積極的すぎるだろうとか、重箱の隅をつつこうと思えばあれこれあげつらえることは可能なんですが、それが瑣末なことに思えてくるほどシナリオがしっかりしてて、予断を許さない、とでもいいますか。
安っぽくないんです。
ちゃんとミステリの流儀にのっとって、丁寧に謎解きへと至る展開を組み上げているだけでなく、ありきたりにならないよう小道具やモチーフにまでこだわりが伺えるんです。
ガラス越しの殺戮劇や、人嫌いの画家を訪ねるシーン等、鮮烈な印象を残す場面を随所にちりばめているのもうまい、と思った。
なにより、私は最後まで犯人がわからなかったし、記憶のあやがもたらす結末に、あっ、といわされちゃったんですよね。
何が犯人を殺人へと至らせたのか、その内面を問いかけるエンディングも、普通に現代で通用するように感じましたし。
屈折した精神の思わぬ形での発露をテーマとするなら、むしろ今の時代こそ雄弁に語れるものがあるのでは、という気がしましたね。
監督デビュー作とは思えぬ才気溢れる一作だと思います。
オススメです。
余談ですがこの作品、原題は「水晶の羽根を持つ鳥」。
それなぜ歓びの毒牙などというわけのわからない邦題になるのか、本当にわからん。
コメント
[…] 初期3部作の中ではデビュー作の歓びの毒牙が一番よく出来ていたように思います。 […]
[…] 主人公がピアニストで、謎の絵を鍵に殺人事件を異邦人が追う、と言う展開は歓びの毒牙と4匹の蝿を混ぜ合わせたような按配で、これは初期の集大成的意味合いもあるのかな、などと私は思ったのですが、そういった製作側のコメントは発見できず。 […]