オーストラリア 2010
監督、脚本 デヴィッド・ミショッド
デヴィッド・ミショッド監督の長編デビュー作。
母親が急死した事によって、祖母一家に引き取られた高校生が悪行三昧な一家の放蕩にふりまわされる様を描いたクライム・サスペンス。
正直ストーリー前半はそれほど緊張感があるわけでも、ひきこまれるものがあるわけでもないんです。
否応なく悪事の片棒を担がされてしまう高校生が気の毒だなあ、 ってなぐらいで。
うまいな、と思ったのは良識とか善悪の判断の欠落した祖母一家の描写で、自分本位で悔恨の情なんざ欠片もない開き直りっぷりはどこか妙にリアルで薄ら寒いものがありました。
実際に平気で犯罪を犯す人間って、こうなんだろうなあ、としみじみ思ったり。
俄然盛り上がってくるのは終盤。
警察の手が一家にのびることで、主人公ジョシュアがある選択を迫られるんですね。
このあたりの醜くも虚々実々な駆け引きは、新人監督とは思えぬ構成力、緊迫感があったように思います。
特に祖母の非道ぶりときたら、どういう人生を送ってきたらここまで何かが欠落した人間になれるんだ、と思えるほどの醜悪さ。
こりゃ凄いキャラだな、とつくづく感心。
そして圧巻のラストシーン。
衝撃的、と言ってもいいでしょう。
極論を言うなら、この数分のシーンがこの作品の白眉であり、すべてでしょうね。
救いはありません。
その後の主人公ジョシュアの事を考えると気の毒でならなかったりもする。
ただ、自分の力でどうすることも出来ない環境に放り込まれた高校生が最後にとった行動がなんであったか、それが語るものの意味は犯罪映画の枠組みを超えてやるせない哀しみをどこか美しくも浮き彫りにします。
ひょっとしてこれはアメリカンニューシネマな青春映画だったのか、なんて私は思ったりしました。
改善点がないわけではないんですが、ここまで多くのことを語りかけるラストを演出して見せたという点を私は高く評価したい、と思います。
ちょっと凄いぞ、デビッド・ミショッド。