オーストラリア/アメリカ 2013
監督、脚本 デヴィッド・ミショッド

「もうひとつのマッドマックス」「世紀末映画の最高傑作」などというキャッチフレーズに騙されると間違いなく肩透かしを食らいますが、一切の予備知識なしで、はて?アクション?犯罪もの?と私のように想像を巡らせながら見るとその凄さにガツンと一発食らうことは間違いなし。
いや、これはちょっと舌を巻きましたね。
もう、オープニングからして映像作家としてのセンスが炸裂しまくってます。
疲れ果てた表情で酒をあおる主人公エリックを映しながら、窓の外を暴走する車をとらえたワンショット。
この静と動のコントラストは何事か、とあたしゃ俄然前のめり。
とにかく先の展開が全く予想できないんです。
エリックが奪われた車をとり返そう、としているのはわかる。
でも何が彼を突き動かしているのかがわからないから、物語がどこへ向かっているのか、まるで予断を許さない。
まさか世界経済が崩壊した後の話だなんて思いませんでしたから、この退廃的ですさんだスラムのような風景はいったいどういう世界観なんだ、と頭をひねりつつも、集中力は途切れることなし。
ひどく現実的なのに、どこか現実から乖離しているという矛盾。
実はこれこそが優れたSFの必須条件だったりもする。
もうひとつのオーストラリアを描いているのか?なんて思いながらも、やたら間のとり方がうまいのにも感嘆。
緊張感を煽っておきながら、次のシーンでふいにすとん、と落としたりするんですね。
硬軟自在のコントロールぶりに、ひょっとしてこれ、心理サスペンス?なんて思ったりも。
中盤から、どこかロードムービーのような質感があったのもうまかった、と思う。
追う男と、追われる男の弟、という奇妙なコンビはその先の展開を期待させるのに充分すぎる設定。
しかし、それでも何一つ明らかにならないんです。
ここまで引っ張るのか、と思いつつもだからと言って中だるみすることなく、ストーリーは衝撃のエンディングへ。
なぜエリックは車を追ったのか、 何故彼はかくも濃い疲労をにじませていたのか、断片的に散りばめられた数少ない情報を巻き込んですべてが一本の線でつながります。
ただただ鮮やか、の一言。
近未来、とか言っちゃうと色々混乱してしまいそうになりますが、フィルム・ノワールととらえてみればすべてに合点がいくのではないでしょうか。
もう少し非現実的なガジェットを用意しても良かったのでは、と思ったりもしましたが、先入観に惑わされている自分を振り切ってしまえば、その質の高さに唸らされることは確実でしょう。
傑作だと思います。
タランティーノが絶賛するのも納得。
私はかなり気に入りましたね。