アメリカ 2008
監督 ダーレン・アロノフスキー
脚本 ロバート・シーゲル
えー、あのアロノフスキーがこんな映画撮るのか?と驚かされた一作。
ファウンテン(2006)の大コケが影響してるのかな、と邪推したりもしたんですが、そういう余計な情報が邪魔に思えてくるほど素晴らしい出来で監督の並々ならぬ力量を再確認させられた次第。
描かれているのは、かつて世界最大のプロレス団体WWEでトップレスラーだった主人公ランディの晩年の姿。
ステロイドの多用で体はボロボロなのにもかかわらず、インディ団体に上がり続ける老レスラーの内面に切り込んだドラマなんですね。
まず私が感心したのは、プロレスラーという特殊な職業の表も裏も徹底してリアルに描写していること。
台本もあれば打ち合わせもあるとしたシーンは、今現在においてすら格闘パフォーマンスであると公表していない日本のプロレス事情を鑑みるに、一部の人にとって大きくショックだったのではないでしょうか。
現実にこういう老プロレスラーいるよ!と感じさせるほど細部にこだわったキャラクター作りもうまかった。
いくつもの顔がランディに重なっては消えましたね、私は。
ミッキー・ロークのレスラーらしい体作り、体さばき、演技も素晴らしい。
そしてなによりも見事だ、と私が思ったのが、プロレスラーに限らず、スポットライトを浴びた人間が生涯を通じてその場所に居た自分をいつまでも追い続けてしまう、という哀しい現実を、優等生的に正論で退けてしまうことなく、これも生きざまなのだ、と提示してみせたこと。
自分の肉体がかつての頑強さを維持できていないことを知り、普通にプロレスとは違う人生を歩もう、とランディは努力するんです。
でも、何もかもが裏目に出てしまう。
身から出た錆とはいえ、どこにも自分を受け入れてくれる場所がない。
結局、彼が輝ける場所はリングの上にしか存在しない。
ドクターストップを押し切って強引に地方のリングに向かうランディ。
彼はそこで何を見、何を感じたのか。
ラストシーン、号泣です。
ふいに自分の人生とランディの人生が重なったりもして、私はもう平常心でいられなかったですね。
余談ですが、みちのくプロレスのエース、グレートサスケはこの映画を見てひどく感銘を受け、ランディがリングで使う決め技「ラム・ジャム」を自分の技として使っています。
本職のプロレスラーが影響を受けるほどなんですから、その完成度たるや推して知るべし。
あまりにランディは愚かだ、とかたずけてしまうのはたやすいですが、その愚かさこそが放つ光を、どう生きるかという命題に重ね合わせた傑作でしょう。
必見。