監督、脚本 リー・ワネル
暴漢に襲われ、全身麻痺となった男が、最新のAIチップを非合法に外科手術することによって超人化してしまうお話。
あらすじだけ読んでると、なんだかアメコミみたいだなあ、って感じですが、主人公を全くヒーロー視していないのが既出の作品とは違う点ですかね。
主人公、もちろんマスクをかぶったりマントをはおったりすることもなければ、手首から糸を吐いたりもしません。
あくまで等身大。
むしろ、いきなり超人化してしまった自分に戸惑ったまま最新式AIに操られるがごとく行動を起こしてしまう、というのが実態。
寄生獣(1988~)を思い出してもらえれば、ちょうどいいか、と思います。
というのもAI、主人公に話しかけるんですね。
普段は脳からの信号が脊髄で途絶している主人公のために、神経系の働きを代行してるんですが、ひとたび主人公の許可があれば、勝手にその四肢を操り、人間とは思えない動きを披露したりするんです。
つまり、首から上と下で2つの人格が存在している、とでもいいますか。
監督が利口だったのは、AIのコントロール化に置かれた主人公の動きを決して格好良く撮ろうとしなかったこと。
というか不気味です。
「高速操り人形」って感じって、その不条理さが際立つ演出になってる。
アイディアそのものに目新しさはないですが、どこから見ても普通じゃない様子が不穏さを掻き立てるんですよね。
物語をリードする上でこれは効果的だった、と思います。
このまま破綻しないはずがない、と誰もが考える。
主人公とAI、どっちの意思で事は進んでるんだ?と惑わせるシナリオも良。
結果、ストーリーがどう転んでいくのか、気になって仕方がない、という仕組み。
で、肝心のエンデイングなんですが、予想外のオチが待ち受けてます。
ただまあ、厳しいことを言うなら予想外ではあるけど、やっぱりそこを落とし所とするんだね・・という手垢感はないわけじゃない。
ちょっと無理してないか?というのも感じましたし。
優秀だったのは、手垢なりに突き放したことでしょうね。
かなりビターなラストシーンです。
低予算映画じゃなきゃこれは無理だったのでは、とも思える。
全編隙なし、とは言いませんが、脚本家として高い評価を得ているリー・ワネルならではの一作、という気はしますね。
とりあえず最後まで退屈はしませんでしたし。
惜しむらくは近未来という設定なのにガジェットや都市の景観が安っぽかったことですが、こりゃもう予算の問題だったんだろうな、と諦めましょう。
監督業もサマになってきた、と感じたのが発見だった、といったところでしょうか。
秀作だと思います。